記事のポイント
- UNEPは薬剤耐性菌で年約450兆円の損失、関連死者は30年で9倍増を警告
- 抗菌薬の不適切な使用だけでなく気候変動や生物多様性の喪失なども要因に
- 各国に環境的配慮を行動計画に盛り込むことやモニタリングの強化を求めた
UNEPは7日に発表したレポートで、薬剤耐性菌(AMR)の拡大で2030年までに年間約450兆円の損失、2050年までに関連死者が年1千万人になると警告した。AMRは抗菌薬の不適切な使用だけでなく、気候変動や生物多様性の喪失なども拡大の要因になっている。各国に対して、AMRに対する行動計画のなかに環境的配慮を盛り込むことや、モニタリングの強化を求めた。(オルタナ編集部・萩原 哲郎)

レポート作成はUNEP、FAO、WHO、WOAH(国連獣疫事務局)を含む、世界の50以上の専門家やステークホルダーが携わった。レポートでは薬剤耐性菌が健康や経済、動植物にも多大な影響をもたらすことを警告し、国際社会での更なる対策を求めた。
レポートによると、対策を行わなければ、AMRが原因で亡くなる人は2050年までに世界で年間1000万人にのぼると推計した。これは2019年比で約9倍増となる。特にアジアやアフリカでは、1万人あたり10人がAMRが死因になることを指摘する。
経済的損失も大きい。2030年までに3.4兆ドル(約450兆円)のGDP損失につながり、2400万人以上を極度の貧困状態にすると指摘する。家畜など動物の死亡率は1%上昇させ、130億ドル(約1兆7千億円)相当の損失を生み出すとみる。
こういった薬剤耐性菌が増えている背景には、抗菌薬などの薬剤の不適切な使用や気候変動、生物多様性の損失なども挙がる。たとえば気候変動による温度上昇は遺伝子の水平伝播の頻度の増加に関係しており、もともと耐性がなかった菌にも薬剤耐性がつくケースがある。
2015年にWHOは加盟国に対してAMRに対する行動計画の策定を勧告した。日本も2016年に「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定した。
今回のレポートでは、各国の行動計画に環境的配慮を盛り込むことや、モニタリングの更なる強化などを求めた。