福井県池田町の7か条、コミュニティのプロはどう見たか

記事のポイント


  1. 福井県池田町が移住者向けに公表した暮らしの7か条が波紋を広げている
  2. 「都会風を吹かさないよう心掛けて」などの表現がSNSで批判を集めている
  3. この7か条を、コミュニティ研究を行う専門家はどう見たのか

福井県池田町が1月末、移住者向けに公表した「池田暮らしの七か条」が波紋を広げている。移住者の後悔や誤解をなくすためという意図で作ったものだが、「都会風を吹かさないように心掛けて」「品定めされることは自然なこと」などの表現にSNSでは批判が殺到している。この七か条について、コミュニティ研究を行う専門家はどう見たのか。(オルタナS編集長=池田 真隆)

森林を生かしたまちづくりに取り組む池田町、写真は同町のHPから

池田町は福井県内有数の豪雪地帯だ。人工は約2300人で、高齢化率は45%に上る。9割が森林に囲まれているため、森林を生かした「まちづくり」を掲げ、過疎化の防止に取り組む。毎年20人弱の移住者を迎えている。

この「池田暮らしの七か条」は集落の区長たちが作成した。移住者が「共同作業」に参加しないことを問題視して、広報誌に掲載し、1月27日に同町の公式サイトでも公開した。

共同作業とは、主に雪かきや草刈り、祭りの用意などを指す。支え合いながら暮らしてきた池田町の慣習を理解してから移住してきてほしいという意図だ。

だが、2月上旬からこの七か条がSNSで投稿されると、批判が殺到している。主な原因は第4条と第5条だ。

第4条は、「今までの自己価値観を押し付けないこと。また都会暮らしを地域に押し付けないよう心掛けてください」、第5条は「プライバシーが無いと感じるお節介があること、また多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚してください」——というものだ。

第4条では「都会風を吹かさないように心掛けて」とも記載しており、SNSでは「偉そう」「高圧的」などの批判が集まっている。

この七か条について、約20年間、コミュニティ研究を行ってきたNPO法人CRファクトリー代表理事の呉哲煥(ゴ・テツアキ)氏は、「コミュニティ感覚」を促す上で有効だと指摘する。

■「個人化」する時代に、あえて「面倒さ」を明示するのは勇気のいること

米国の心理学者シーモア・サラソン氏は自身が定義した「コミュニティ感覚」の中で、「一員である」という感覚が大切だとしています。よって一員だと思えることを名言・明文化しているのは、その自覚を促す上で有効なのではないかと思いました。

凝集性の高いコミュニティに帯びる「面倒さ」や「密な暮らし」、「濃い人間関係」などの側面を正直に提示しているのは興味深いです。

日本社会はこの30〜40年、「わずらわしさからの解放」を求めて、都市に移動し、親戚・大家族・ご近所づきあいから距離を置き、個人化してきました。

この「選択的関係が主流化する社会」において、あえて「面倒さ」や「わずらわしさ」を明示するのは勇気のいることだと思います。

ミスマッチを解消するためという内なる動機の部分もあると思いますが、一方でここまでエッジを効かせることで逆にここに強い関心のある方を惹きつける効果もあると思います。

コミュニティは良し悪しもある程度はあると思いますが、一番は「相性」だと思います。この七か条に合った方に来ていただけるようになれば、お互いにとって良い結果を生むのではないでしょうか。

私たちはコミュニティマネジメントの中でこれを「入り口のマネジメント」と言っています。ある程度入り口の段階で選抜する力を働かせないと、メンバーの多様性によってコミュニティ運営がすごく大変になることがあります。

程度の問題はありますが、ある程度入り口の段階で選抜する力を働かせることは、その後のメンバーとコミュニティ運営にとってはプラスに働くことが多いです。

最後に、コミュニティのメンバーはその都度その都度、人生や仕事や状況・ニーズなどが変化していきます。

変化したときに気持ち良く移動ができる(抜けることができる)という面も備えていけると良いと思います。

特に今回のようなコミュニティにおいては、しっかり入り口で共感や同意をつくる仕掛けを施しながらも、離れる局面においても仕掛けを施しておくと良いのではないかと思いました。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #移住

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