WWFジャパン「政府GX方針には変革の意志がない」と非難

記事のポイント


  1. 政府が閣議決定した「GX基本方針」に、環境NGO WWFが抗議声明を公表
  2. カーボンプライシングを早期に導入しないことや原発の最大活用などを批判
  3. この方針に捉われることなく、脱炭素化を実現するために重要な3点を提言

国際環境NGOのWWFジャパンは2月14日、政府が閣議決定した「GX基本方針」に対して、抗議声明を公表した。カーボンプライシングを早期に導入しないことや原発の最大活用などを批判した。(オルタナS編集長=池田 真隆)

政府は2月10日、「GX実現に向けた基本方針(GX基本方針)」を閣議決定した。GX基本方針は、今後10年間であらゆる産業の脱炭素化に向けた施策をまとめたロードマップだ。

GX基本方針で定めた主な施策は下記の通り。

▶GX化に向けて10年間で官民合わせて150兆円規模の投資
⇒2023年度に経産省が発行するGX経済移行債(発行額20兆円)を呼び水に
▶カーボンプライシング(CP)の本格導入は「2030年過ぎ」
⇒日本のCPは、排出量取引(2026年度から)、賦課金(2028年度から)、電力会社への排出枠の有償化(2033年度から) *炭素税は導入予定なし
▶再生可能エネルギーの主力電源化
⇒エネルギー基本計画で定めた通り、2030年度に再エネ比率36~38%達成へ
▶原子力の最大限活用
⇒脱炭素の「ベースロード電源」と位置付け、再稼働と次世代革新炉の開発を強化
▶水素・アンモニアの導入促進
⇒水素・アンモニア混焼・専焼で、石炭火力を延命
▶電力・ガス市場の整備
⇒供給力確保へ2024年度に「容量市場」運用、蓄電池やCCS/カーボンリサイクル技術追求へ
▶資源外交など国の関与を強化
⇒サハリン1,2はエネルギー安全保障上の重要性から権益を維持

WWFジャパンは、CPを早期に本格導入しないことや国民的議論を欠いたまま拙速に原発を活用していくことが、「今後10年の日本の温暖化対策とされたことに深く失望する」と指摘した。

WWFジャパンは、パリ協定の「1.5度目標」とその目標達成に不可欠な2030年までの温室効果ガス排出量半減を成し遂げるには、「キャップ&トレード型排出量取引制度」や「再エネ・省エネ既存技術の最大限活用」など実効性のある排出削減策が必須であると強調した。

これらの政策の立案・実施は社会全体での議論に根差していなければならないとし、今後の国会審議や制度詳細の議論で重要視すべきポイントを3つまとめた。

WWFジャパンが公表した抗議声明は下記の通り。

第一に、キャップ&トレード型排出量取引制度を早期に導入するべきである。同制度は、総排出量の上限設定や制度参加、目標未達時の排出枠購入が法的に強制されるため、排出削減の実効性が高い。

他方、成長志向型カーボンプライシングは企業の自主性に依存しているため効果に疑問があり、その導入スピードも遅い。振り返ってみれば、過去30年にわたる日本の温暖化対策の遅れは、この「自主性依存」にあったと言わざるを得ない。

GX実行会議における検討プロセスは、一部の事業者や有識者のみで構成され、5か月という短い期間の議論に留まり、年末年始にかかる形ばかりのパブコメを経るのみで拙速に実施された。

本来、このような国の将来を担う重要な決定は、透明性を確保しつつ、多様な専門家や関連アクターが参加し、国民的議論を経て決定するべきである。

第二に、原子力利用の方向性について最低限まずは、幅広い層の国民が参加する熟議を確保するべきである。

今回、従来の政府方針が大きく転換されたが、広い国民の熟議も理解も無い拙速なものであった。このことは各地方経済産業局で開催される意見交換会の紛糾からも明らかである。

また、革新炉開発・建設は、2030年までの排出量半減に貢献せず、再エネへの投資原資を奪う可能性がある点も当然考慮されなければならない。

第三に、GXへの投資支援策も改善する必要がある。排出削減効果が低く、パリ協定下のタイムラインにも整合しない水素・アンモニア混焼・専焼技術の追求を転換し、石炭火力発電の廃止目標・計画を直ちに設定すべきである。

他方、地域間連系線の増強やペロブスカイト太陽電池の開発加速は、まさに2030年までの削減に資する点で評価できる。原資が限られるなか、これら再エネ・省エネ既存技術の導入拡大の支援こそがGX投資に求められる。

国際的に認知されるカーボンプライスの形成に向けては産業界の自主性頼みから脱却する必要がある。

また、キャップ&トレード型排出量取引制度や再エネ・省エネ既存技術の開発・実装に対する集中的支援こそが、本来は2030年までの排出量半減を達成する政策の中核をなす。社会全体を巻き込む形で制度詳細を議論し、世界で標準とみなされる温暖化対策の実現、真のグリーントランスフォーメーションが図られるべきである。

政府は本基本方針と同時に「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。関連する法案も今後提示される予定であり、それらについては改めて後日WWFジャパンとしての意見を述べる。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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