記事のポイント
- パーパス(存在意義)を軸とした「パーパス経営」を掲げる企業が増えている
- SOMPOホールディングスは、パーパスを経営戦略の根幹に位置付けた
- 同社は、社員に「MYパーパス」に向き合うことを推奨している

自社のパーパス(存在意義)を軸とした「パーパス経営」を掲げる企業が増えている。SOMPOホールディングスも、その一社だ。同社は2021年に「SOMPOのパーパス」を経営戦略の根幹に位置付け、社員には「MYパーパス」に向き合うことを勧めてきた。国内グループ会社の社員約1万人に対し、タウンホールミーティング(CEOとの対話の場)を実施した結果、参加者のうち「MYパーパスを持ちたいと思った」社員は99.2%に上った。(オルタナ副編集長=吉田広子)
■「会社のなかの自分」から「自分の人生の中に会社を入れる」
「『安心・安全・健康のテーマパーク』により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」
SOMPOホールディングスは2021年5月、「SOMPOのパーパス」をこう掲げた。中期経営計画では、パーパスを経営戦略の根幹に位置付ける。
さらに、「SOMPOのパーパス」を実現するのは、SOMPOグループの社員一人ひとりであるとの考えから、社員に「MYパーパス」に向き合うことを推奨している。MYパーパスとは、自分自身の「人生の意義・目的」や「働く意義」を指す。
パーパス経営を目指す企業の集まり「パーパス経営 研究会」に参加し、同会で事例を発表した平野友輔・SOMPOホールディングスサステナブル経営推進部長は、「パーパス経営を実践する上で、会社のパーパスを『自分事化』することに課題があった」と振り返る。
SOMPOグループは、経営統合を経て、損保事業を起点としながら、国内生保、海外保険、介護、デジタルなど事業領域を拡大してきた。現在は28カ国・地域で事業を展開し、約7万4000人の社員を抱える。
平野部長は「マクロの視点とミクロの視点を結び付けるために、『MYパーパス』が有効ではないか」と考えたという。そこで、CEO自ら語り掛ける「タウンホールミーティング」や、上司と部下が対話する「MYパーパス1on1」などを実施し、社員が「MYパーパス」を考えるきっかけづくりに注力した。
「これまで『会社のなかの自分』ととらえていたものを、『自分の人生の中に会社を入れる』。こうしたパラダイムシフトが起きると、会社や仕事との向き合い方が変わってくる。CSV(共通価値の創造)のカギを握るのは、やはり現場だ。社員が内発的動機に基づいて新たなアクションを起こせるようになれば、イノベーションを生み出す組織風土ができるはず」(平野部長)
■指示型マネジメントを脱却し、自律した人材を育成
同社が「MYパーパス」に力を入れる背景には、コロナ禍で働き方が変わったこともある。リモートワークが進むなか、従来の指示型マネジメントでは限界があり、部下の力を引き出したり、自律した人材を育てたりするような新たなマネジメントが必要だと実感した。
平野部長は「『MYパーパス』は、コミュニケーションツールとしても有効で、エンゲージメントの向上にも役立つ」と語る。
SOMPOグループは、「1.トップの発信」「2.現場の取り組み」「3.浸透の測定」を連動させて、国内外の社員に「MYパーパス」の浸透を図ってきた。
CEOとの対話の場であるタウンホールミーティングは、「会社や個人のパーパスとは何か」がテーマだ。これまで国内グループ会社を対象に7回実施し、約1万人が参加した。その結果、「MYパーパスを理解し、持ちたいと思った人」は99.2%、「MYパーパスをつくり、実現に取り組みたいと思った人」は97.9%に上った。海外でも同様の結果が出た。
管理職を対象にした「MYパーパス1on1」研修には約4500人が参加し、2023年度中に国内グループ会社のマネジメント層の9割が受講を完了する見込みだ。研修を受けた管理職は、部下と1対1で対話を行う。社員からは「飲み会でも聞けなかった本音を知れた」「会社の本気を感じた」といった前向きな感想が寄せられているという。
自発性を尊重し、MYパーパスを人事評価と連動させないことにも注意している。連動させると、自分自身のパーパスよりも、会社や上司の意向を意識してしまうからだ。
加藤素樹・SOMPOホールディングス人事部特命部長は「『MYパーパス』を推進していくなかで、社員の顔つきや、仕事の向き合い方に変化を感じている。私たちが知らないところで、新たなプロジェクトが生まれるなど、自律型組織に変わり始めている」と手応えを語った。