記事のポイント
- 欧州委員会は脱炭素技術を育成する「ネットゼロ産業法案」を発表
- 2030年までに域内需要の40%以上をEU域内で生産することを目指す
- 太陽光発電や風力発電など8つの「戦略的ネットゼロ技術」を推進する

欧州委員会は3月16日、グリーンディール産業政策の一環として、EU域内でのクリーン技術(ネットゼロ技術)の生産拡大を目的とした「ネットゼロ産業法案」を発表した。2030年までに、脱炭素化技術に対する域内需要の40%以上をEU域内で生産することを目指す。米国では2022年に「インフレ抑制法」が成立し、欧州でも、脱炭素化プロジェクトの立ち上げや投資を呼び込むための環境整備が進む。(北村佳代子)
具体的に対象となる8つの「戦略的ネットゼロ技術」は、次の通りだ。
1)太陽光発電、太陽熱発電
2)陸上風力発電、洋上での風力発電や太陽光発電など
3)バッテリーとストレージ(蓄電技術)
4)ヒートポンプと地熱エネルギー
5)電解槽と燃料電池
6)バイオガス/バイオメタン
7)炭素回収・貯蔵(CCS)
8)グリッド技術
「戦略的ネットゼロ技術」に対しては、特に支援を厚くし、域内生産40%の実現に向けたベンチマークとする。
同法案では、情報提供の充実化や、補助金・許認可手続きの簡素化を通じて、プロジェクトの立ち上げに伴う事務的負担を軽減する。特に、炭素貯留などのEU産業の競争力強化に資するプロジェクトは、優先して許認可期間や手続きの短縮化を図る。
炭素回収は、2030年までに二酸化炭素貯留施設への注入能力を年間5000万トンまで引き上げることを目標とする。
再生可能エネルギーで製造した「グリーン水素」は、EU域内での普及と海外パートナーからの輸入支援を目的に、「欧州水素銀行」を創設する。これは、欧州が水素製造拠点になることの明確なメッセージだ。
再生可能水素の製造に関しては、グリーンディール産業計画に沿って、イノベーション基金から、最初の試験的オークションが2023年秋に開始される。
選ばれたプロジェクトには、最大10年間の運転期間中、生産される水素1キログラム当たり固定プレミアムとして補助金を支給し、プロジェクトのバンカビリティ(銀行の融資適格性)を向上させることで、全体的な資本コストの引き下げにもつなげていく。
欧州委員会は、別途発表した「重要原材料規則」や電力市場設計改革とともに、本法案の制定を通じて、EUの輸入依存を減らし、欧州のクリーンエネルギー供給網のレジリエンス向上を図っていく。