記事のポイント
- フロン類対策の格付けでイオンなど49社・2大学が最高位のAランクに
- フロン類はCO2と比べて1万倍の温室効果を持つことが問題視されている
- 国際的に製造規制を強化しており、サステナ経営にフロン対策は必須だ
一般財団法人日本冷媒・環境保全機構(JRECO)はこのほど、プライム市場に上場する1840社と、全国の大学を対象にフロン類対策の格付けを行った。フロン類は温室効果ガスの一つであり、その地球温暖化係数はCO2の数百から1万倍に及ぶ。機器の点検管理状況や算定漏えい量などに関して、正しく開示した「Aランク」企業は、イオンやエーザイ、住友理工など49社(全体の3%)だった。(オルタナS編集長=池田 真隆)
フロン類はエアコンや冷蔵庫などの冷媒をはじめ、断熱材の発泡、半導体や精密部品の洗浄剤、など様々な用途に使われている。人体への毒性が低いことで広がってきたが、オゾン層の破壊や地球温暖化に及ぼす影響が大きいことが問題だ。

JRECO(ジェレコ)は2021年度から上場企業を対象にフロン対策の格付けを行う。統合報告書やサステナビリティ報告書などで開示した情報を調べ、フロン排出抑制法に関する理解度や取り組み状況を比較した。
同法に基づき算定漏えい量や定期・簡易点検状況などを適切に開示した企業を最高位の「Aランク」に位置付けた。2021年度に東証一部上場企業を対象に実施した第1回調査ではAランクは16社(全体の2%)だったが、今回の第2回調査では49社(全体の3%)だった。
フロン類の漏洩は、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)が定めた「気候リスク」に該当する。こうしたことを背景に、フロン対策を強化する企業がじわりと増えてきた。
Aランク入りしたのは、イオン、中外製薬、三越伊勢丹、ワタミ、エーザイ、住友理工、東京エレクトロン、三井物産など49社だ。
開示したが、内容が一部不足した企業はBランクと評価した。Bランクは、旭化成やセブン&アイ・ホールディングス、積水ハウスなど85社だった。
JRECOの山本隆幸・企画・調査部担当部長は、「格付けを毎年発表することで企業のフロン対策への意識が高まってきたと感じる」と手応えを話す。
Aランク入りした日清製粉グループは昨年の調査でBランクだった。同社はJRECOに問い合わせ、改善策を実行してきた。同社のように格付けの結果をJRECOに問い合わせる企業は増えているという。
各社は格付けの結果をサイトや報告書に記載し、社内外のステークホルダーに周知する。山本部長は、「Aランクに入るために何をすればよいのか企業とコミュニケーションを取るきっかけになっている」と話す。
■GHG排出量、増加傾向は「代替フロン」だけ
企業のフロン対策への関心はCO2削減と比べて低い。日本は2021年に2050年に温室効果ガス(GHG)の排出量「実質ゼロ」を目指すことを地球温暖化対策計画で閣議決定した。同計画が削減対象に入れたGHGは、CO2だけではない。メタン、一酸化二窒素、フロンガス(HFC、PFC、SF6、NF3)もある。
経産省の資料では、日本のGHG排出量は2014年から6年連続で減ってきたが、ガスの種別でみると、代替フロンのHFC(ハイドロフルオロカーボン)だけ増加傾向にある。

HFC は、特定フロン(CFC、HCFC)の代替として広がったものだ。特定フロンと違い、オゾン層を破壊しないのが特徴だ。だが、地球温暖化係数はCO2の100 倍から1万倍と大きな温室効果を持つ。
環境に深刻な影響を及ぼすHFCに、国際社会は規制を強化する。それが、2016年10 月にルワンダの首都キガリで採択した「キガリ改正」だ。特定フロン(CFC、HCFC)の製造を規制していたモントリオール議定書を改正し、製造規制対象にHFCも入れた。
キガリ改正は2019年1月1日に発効した。今後のHFCの規制の流れはこうだ。先進国では、2024年に大きな節目を迎える。2024年に、HFC製造量は2011~2013年比で40%削減を義務化する。2036年には85%削減(同基準年)を義務化するので、HFCはほぼ生産できなくなる。

例えば、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで冷蔵・冷凍庫が使えなくなる可能性もあるのだ。そこで、企業が取るべき施策は主に二つだ。
一つ目は、ノンフロン・地球温暖化係数が低い「グリーン冷媒」に切り替えること。または、フロン類(CFC、HCFC、 HFC)が使われている製品の定期点検を行い、フロン類の排出を抑制する適切な管理だ。
■企業8割がフロン対策に後ろ向き
冷凍空調インフラにとっては「存亡の危機」を迎えているにも関わらず、多くの企業がフロン対策に後ろ向きであることが分かった。調査では、フロン排出抑制法の遵守について開示していない企業が1506社に及んだ。全体の82%に当たる。昨年の第1回調査でも、8割以上の企業が同法の遵守について開示していなかった。
「フロン類に関心を持ち、重要な経営課題ととらえることが、サステナ経営でもある。そのような考えを持つ経営者を増やしていきたい」と山本部長は意気込む。
JRECOでは4月13日、大学向けにも格付けを公表した。全国の国立大学・公立大学・私立大学のフロン対策を5段階で格付けした。
国立大学法人86校を調べ、最高位のAランクには、東北大学と長崎大学を位置付けた。Bランクには、金沢大学、佐賀大学、千葉大学、筑波大学、電気通信大学、山形大学、山口大学が入った。
公立・私立大学については、法令で環境活動の公表を求めていない。そのため、590の大学のサイトなどを調べた結果、環境活動を開示していたのはわずか35大学だった。
35大学のうち、Aランクはなしで、Bランク入りしたのは、福岡大学、九州産業大学、昭和薬科大学、日本女子大学だった。
大学も企業と同様にフロン対策への関心は低い。山本部長は、「環境活動の開示に取り組み、フロン類への対策を強化してほしい」と話した。
■「第2回JRECOフロン対策格付け」Aランク入り企業一覧
イオン
イオンディライト
いすゞ
出光
エーザイ
AGC
大阪瓦斯
小野薬品工業
カネカ
上組
クボタ
コカ・コーラボトラーズジャパン
コスモ
サントリー食品インターナショナル
三洋化成工業
JSR
塩野義製薬
住友理工
セントラル硝子
ダイキン
高島屋
中外製薬
DIC
デンカ
東亞合成
東ソー
東京エレクトロン
東京応化工業
東京瓦斯
東京電力ホールディングス
東邦瓦斯
凸版
南海電気鉄道
西日本鉄道
日清製粉グループ本社
日東興業
日本触媒
日本曹達
ニップン
NIPPON EXPRESS
東日本旅客鉄道
ヒロセ電機
フクシマガリレイ
マクセル
三井物産
三越伊勢丹
ヤクルト本社
山崎製パン
ワタミ