記事のポイント
- 欧州発の経済思想「公共善エコノミー」が日本にもじわりと浸透してきた
- 企業の存在意義を「公共の幸せの追求」と位置付けた
- 様々な課題を生む資本主義経済へのアンチテーゼとして35カ国に広がる
格差が拡大する資本主義経済へのアンチテーゼとして、「公共善エコノミー」という経済思想を広げる動きがある。公共善エコノミーでは、利益は「公共の幸せ」を達成するための一つの手段に過ぎないと位置付けた。企業を売上高や収益など財務情報だけでなく、倫理性・社会性・環境保護・民主性の観点から総合的に評価する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

公共善エコノミーは、古代ギリシャの哲学者アリストテレスの経済思想を基盤にした考え方だ。ギリシャ語で「つながり」「バランス」などの意味を持つ「ホリスティック」と「エシカル(倫理性)」を最重要視したオルタナティブな経済思想だ。盲目的に収益を追求する資本主義経済へのアンチテーゼとして2010年頃から欧州と南米を中心に広がってきた。
公共善エコノミーでは、企業の存在意義を「公共の幸せの追求」と位置付ける。公共の幸せを達成するために、企業は存在することを強調した。「誰も置き去りにしない」がスローガンのSDGsにも通じる考え方だ。
提唱者は、オーストリア・ウィーン在住のクリスティアン・フェルバー氏。同氏は、学者、作家、政治活動家、ダンサーという肩書を持つ。
同国の中小企業経営者とこの考え方を構築し、2010年に書籍『公共善エコノミー』で体系的にまとめた。同書は日本を含む8カ国語に翻訳され、14カ国で販売された。

クリスティアン・フェルバー 著 池田憲昭 訳
書籍化を機に公共善エコノミーに共感した企業・組織の輪は広がってきた。公共善エコノミーを推進する企業・組織数は、2010年からの13年間で、欧州と南米を中心に世界35カ国に3000超に及ぶ。
ドイツ人環境ジャーナリスト・フランツ・アルト氏は、公共善エコノミーのことを「社会主義と資本主義の間に位置する実用的な第3の道だ」と評した。
■倫理性・社会性・環境保護・民主性の4つの基本価値から企業価値を測る
公共善エコノミーでは、企業や組織を測る「公共善決算」という指標を持つ。倫理性・社会性・環境保護・民主性という4つの基本価値と5つのステークホルダー部門からなる20項目で評価する。
こうすることで、財務諸表から読み取ることができない、企業の多面的な価値と存在意義を数値化する。公共善決算の評価項目はSDGsの17目標も含んでいて、SDGsの達成度を評価するツールにもなっているという。
運動に参加する3000以上の企業(組織)のうち、約1千社が公共善決算を作成し、公表した(公認の監査官による査定・認証済み)。
公共善決算の点数は最低マイナス3600点から最高プラス1000点までの幅がある。5段階評価だ。751点以上が「優秀」、750~501点が「優良」、500~251点が「良」、250~1点が「初級」、0点以下が「リスクあり」とする。
元第一勧業信用組合理事長の新田信行氏は、『公共善エコノミー』初版の推薦文でこう述べた。
「従来の会計手法では、本来の日本的経営の価値を認識出来ない。日本の中小企業の事業価値を顕在化し、更に磨き育てるための世界との『共通言語』として、公共善エコノミーに注目している」
『公共善エコノミー』の日本語版が2022年末に出版された。翻訳した池田憲昭氏によると、日本で初めて公共善決算を作成する実践モデル・パイロット事業の企画も持ち上がっているという。
・「公共善エコノミー国際連合」ウェブサイトはこちら
・翻訳者 池田憲昭による「公共善エコノミー・ブログ」はこちら
・「公共善決算」の評価指標20項目に沿って、ドイツ・オーストリアの企業・団体からベストプラクティクス20社・団体を模範事例として紹介したサイトはこちら