「GX脱炭素電源法案」が危ういと言われる3つの理由

記事のポイント


  1. GX脱炭素電源法案が27日の衆院本会議で賛成多数で可決した
  2. 同法案では原発の運転期間を実質「60年超」とすることなどを盛り込んだ
  3. 国民的議論を欠いたまま進む同法案の主な問題点を3つまとめた

原発の運転期間を実質「60年超」とすることなどを盛り込んだGX脱炭素電源法案が4月27日、衆議院本会議で賛成多数で可決した。近く参議院で審議する。同法案では、原子力利用に関する「憲法」でもある原子力基本法を改正し、「国の責務」として原子力産業を支援することを明記した。法案について専門家は「安全神話をもとに作られており、その費用は将来世代にも影響が及ぶ」と話す。主な問題点を3つまとめた。(オルタナS編集長=池田 真隆)

原子力政策を大きく変えるGX脱炭素電源法案に対して、NGOたちは反対の声をあげる

「改正案では、事故が起きた後の責任の明確化を避けており、安全対策すれば事故が起きないという安全神話をもとに作られた傾向がある。原発の『永続化法』でもあるGX脱炭素電源法案は廃案にすべきだ」——。

原子力政策に詳しい龍谷大学政策学部の大島堅一教授は、政府が成立を目指すGX脱炭素電源法案に対して、こう批判した。

「GX脱炭素電源法案」は、原子力基本法、原子炉等規制法、電気事業法、再処理法、再エネ特措法の5つの改正案をまとめた「束ね法案」だ。5つある法案のうち、再エネ特措法以外の4つは原子力政策に関わる。十分な国民的議論を欠いたまま進む同法案の問題点を整理した。

問題点1: 「抜本的な改革」が実施されても、国が原子力産業を手厚く支援

原子力政策の基本方針を示した原子力基本法(1955年制定)は、原子力利用に関する「憲法」だ。同法案では、原子力基本法を改正し、「国の責務」を新設しようとしている。

国の責務として、「立地地域住民への理解促進」「地域振興」「人材育成」「産業基盤の維持」「研究開発の推進」「事業環境整備」——を国が支援していくことを明記した。

再生可能エネルギーの推進を図る再エネ特措法において、国が支援する施策は「研究開発の推進」のみだ。

さらに、原子力を安全に利用していくための国の方針として下記の文章を新たに盛り込む。

「電気事業に係る制度の抜本的な改革が実施された状況においても、原子力事業者が原子力施設の安全性を確保するために必要な投資を行うことその他の安定的にその事業を行うことができる事業環境を整備するための施策」(第二条の三-三)

「抜本的な改革」が実施されても、国が原子力産業を手厚く支援していくことを強調した。

問題点2: 原発の運転期間延長を認める法律の所管を、規制側から経産省へ

原発の運転期間については、福島事故後の2012年に原子力規制庁が所管する「原子炉等規制法」で「原則40年、最長60年」と定めていた。政府はこの原子炉等規制法を改正し、運転期間を原則40年と定めた規定を削除する。

その上で、運転期間の規定については、経産省が所管する「電気事業法」に移す。こうすることで原発を推進する立場の経産大臣の認可で原発の運転期間の延長を決めることができるようになる。原発推進側の経産省が決めた運転期間内で、原子力規制委員会に安全性の確認を求める形にする。

大島教授は、「規制の虜(とりこ)を生み出す」と指摘した。規制の虜とは、規制側が規制される側に支配される状況を指す。

福島第一原発事故の検証を行った国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は、事故が起きた根本的原因として、「監視・監督側の機能が正常に働いていなかった」と報告書でまとめた。自然災害ではなく、「規制の虜」に大きな原因があるとしたのだ。

大島教授は、今回の改正案で、新たな規制の虜を生み出すとし、「第二の福島事故が起きる可能性もある」と話す。

問題点3: 憲法76条「裁判官の独立」すら侵して運転延長へ

電気事業法の改正案では、原発の運転期間(原則40年)について、次の理由によって原発を停止した場合、運転期間から除外できるようにした。

「関連法令の制定・変更への対応」「行政処分」「行政指導」「裁判所による仮処分命令」「その他事業者が予見しがたい事由」——の5つだ。

運転を停止しても劣化していくが、こうすることで実質60年超の運転が経産大臣の認可でできるようになる。大島教授は、「運転期間が60年を超える原発は現時点で世界にはない」と話す。

「裁判所による仮処分命令」で停止した期間を運転期間から除外することについて、大島教授は、「日本国憲法第76条で定めた『裁判官の独立』を侵している」と指摘する。「裁判所が下した判断に行政が勝手に『必要なかった』とは言えない」。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

執筆記事一覧
キーワード: #原発

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。