記事のポイント
- 国内外の多くの企業が「ネットゼロ」目標を掲げている
- 独立系シンクタンクがトヨタやJERAなど10社の気候目標や削減対策を分析
- その結果、「1.5度目標」に整合しないことが分かった
気温上昇を1.5度以内に抑えるために、多くの企業は温室効果ガス(GHG)排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」目標を掲げる。だが、独立系シンクタンクClimate Integrate(クライメート・インテグレート、東京・港)が、トヨタやJERAなど10社の気候目標や削減対策を分析した結果、「1.5度目標」に整合しないことが分かった。(オルタナ副編集長=吉田広子)

クライメート・インテグレートは5月8日、報告書「ネットゼロを評価する: 日本企業の気候目標レビュー」を発表した。日本の主要企業の気候目標や対策の透明性と環境統合性を明らかにし、企業によるオフセット計画の信頼性を精査することが目的だ。
背景には、ネットゼロ目標を掲げる企業が増えるなかで、「グリーンウォッシュ(環境に配慮しているように見せかけること)」が問題視されていることもある。
クライメート・インテグレートは、多排出部門から日本の主要企業10社を選んで評価した。対象になったのは、JERA(電力)、J-POWER(電力)、 日本製鉄(鉄鋼)、JFE(鉄鋼)、 ENEOS (石油・ガス)、太平洋セメント (セメント)、三菱ケミカル (化学)、ANA (輸送サービス)、王子 (製紙・林業)、トヨタ自動車(輸送機器製造)の10社だ。
これら10社の2020年度における温室効果ガス排出量(スコープ1・2)は、同年度における国内の全排出量の36%(4億1414万tCO2)に相当するという。
報告書では、独シンクタンクNew Climate Instituteが開発した分析・評価手法を使い、次の4つの領域について評価を行った。
・排出量の把握と開示
・具体的で排出削減目標の設定
・排出削減対策
・気候変動対策への貢献やオフセットを通じた責任
評価結果の概要は次の通りだ。
・対象10社全ての環境統合性は「低い」に属する
・排出量の開示が不十分であり、気候変動への取組に対する第三者評価が制限されている
・10社の2030年目標および2050年ネットゼロ目標は、1.5℃目標達成に必要な野心にほど遠い
・対象企業の対策は、地球温暖化を1.5℃に抑えるために必要な変革を起こすには不十分である
・供給側、需要側ともに再生可能エネルギーへの移行が遅れている
・オフセット計画の信憑性が問われている
・2030年に向けた重要な10年で、企業対策の可能性を引き出すためには、不十分な気候目標への対処が直ちに必要である
JERAに関しては、排出削減対策が取られていない石炭火力発電の段階的廃止を約束しておらず、アンモニアや水素の混焼を推進している点や、2025年度以降の再生可能エネルギーの数値目標を示していない点が問題視された。
トヨタ自動車は、2035年までに内燃機関乗用車の新車販売を世界全体で終了することや、2050年までにスコープ3排出量をゼロにすること(スコープ3の排出量は全体の98%に相当)などの達成について約束していないことが、厳しく評価された。
平田仁子・Climate Integrate代表理事は「1.5度目標の実現のために2030年までの対策強化が求められている。評価結果から、日本の企業が、より高い透明性と環境統合性を確保する必要性があることが明らかになった。企業が自ら定めるネットゼロ目標に十分に責任を持って取り組むことに期待したい」とコメントしている。