記事のポイント
- 大阪入管医師に飲酒診療の疑いが浮上するなど、入管行政が問題視されている
- 杉久武法務委員長(公明党)は、6月6日に採決することを職権で決めた
- 廃案を求め、6月5日夜、国会前で開かれた集会には約5500人が集まった
入管法改正案の立法事実が揺らぎ、大阪入管医師の飲酒診察が問題視されるなかで、参院法務委員会の杉久武委員長(公明党)は、6月6日に採決することを職権で決めた。だが、廃案を求める声は止まず、6月5日夜、国会前で開かれた集会には約5500人(主催者発表)が集まった。全国各地で同様のデモが相次ぎ、その数は78カ所にも上るという。(オルタナ副編集長=吉田広子)

入管法改正案の採決を前に、大阪出入国在留管理局に在籍する医師が、酩酊(めいてい)状態で外国人収容者を診察した疑いが浮上した。勤務中に不審な点があり、呼気検査を実施したところ、アルコールが検出されたという。
齋藤健法務大臣は2023年2月に報告を受けていたにもかかわらず、この事実を公表しなかったことから、大臣の責任を問う声が上がっている。
■柳瀬参与員の所属団体は外務省から約6億円の資金提供
改正案の立法事実も揺らいでいる。難民問題に取り組む弁護士グループは6月3日、柳瀬房子難民審査参与員(難民を助ける会会長)の説明が矛盾していることを示す音声データを公開した。
与党が改正案の根拠としているのは、柳瀬氏による「難民をほとんど見つけることができない」という発言だ。同氏は「16年間で2000人以上と対面した」と説明しているが、弁護士グループが公開した音声によると、「面談は年間90人ほど、100人に届かないくらい」と話している。
さらに「どこの国も都合のいい人は来てください、都合の悪い人は困ります、としている。主権国家であれば」といった発言もしている。同氏には、難民審査の25%(1231件、2022年)が振り分けられ、難民審査に「偏り」があることは明らかだ。
同氏が所属する難民を助ける会(東京・品川)は、外務省から約6億円もの資金提供を受けている。
2021年度決算報告によると、外務省日本NGO連携無償資金協力費として約2億7000万円、ジャパン・プラットフォーム(東京・千代田)経由で約3億2000万円を受け取っている。ジャパン・プラットフォームは、2000年に政府、企業、NGOが「三位一体」で立ち上げた難民・災害被災者支援組織だ。
■公明党は「外国人の人権に配慮をした法改正」と主張
職権で採決を決めた参院法務委員会の杉久武委員長は、公明党所属だ。
公明党に対し、柳瀬氏の発言や改正案の根拠に問題がないか質問したところ、広報担当者は文書で「ご質問の方の発言が、今回の改正の根拠となっているのかは承知しておりませんが、現在よりもさらに、本来、送還されるべき人が送還され、保護されるべき人が保護されるようにするために法改正が必要であると考えます」と回答した。
強制送還後、外国人が迫害を受けた場合の責任については、明言しなかった。
公明党が掲げる理念「<生命・生活・生存>を最大に尊重する人間主義を貫く」に改正案は矛盾しないかを問うと、「これまで以上に外国人の人権に配慮をした法改正だと考えており、生命・生活・生存をより尊重していけると考えます」と答えた。
■国会前に5500人、「強行採決、絶対反対」の声
入管法改正案の廃案を求め、6月5日夜、国会前で開かれた集会には約5500人(主催者発表)が集まった。参加者は「強行採決、絶対反対」の声を上げた。難民問題に取り組む児玉晃一・弁護士のまとめでは、全国78カ所でデモが行われたという。
同氏は集会で、「台湾や韓国でも、無期限収容は憲法違反になった。英国では、収容されても、自由に活動できる。私たちはまだまだあきらめない。なぜなら、私たちがやっていることが正しいことだから。あきらめなければ絶対に何かが起こる」と訴えた。
「ネルソン・マンデラの言葉を借りれば、楽観的であるということは、顔を太陽に向け、足を前に踏み出すこと。私たちは絶対にあきらめない」(児玉弁護士)