記事のポイント
- 「LGBT理解増進法案」が9日、衆院内閣委で与党の修正案を可決した
- 与党が日本維新の会と国民民主党の修正を受け入れたとみられる
- 当事者らは「性的少数者への理解を『阻害』しかねない」と危機感を示した。
「LGBT理解増進法案」が6月9日、衆議院内閣委員会で与党の修正案を可決した。審議入りの前夜から早朝にかけて、与党が日本維新の会と国民民主党の修正を受け入れたとみられる。LGBTQ当事者や支援者らは、「多数派への配慮を求めるような内容に修正され、性的少数者への理解を『阻害』しかねない」と危機感を示した。(オルタナ副編集長=吉田広子)

「崖から突き落とされたような気分だ」。LGBT差別禁止法を求めてきたLGBT法連合会の神谷悠一事務局長は、可決後の記者会見で、こう吐露した。
今国会では、与党修正案(自民・公明)、維新国民独自案(維新・国民)、超党派合意案(立憲・社民・共産)の3案が提出されていた。9日の衆院委では、維新と国民の提案を受け入れた修正与党案が可決された。立憲民主、共産、社民の3党案は否決されたほか、付帯決議の採択は認められなかった。
維新・国民から要望を受けて修正したのは次の点だ。
1)「保護者の理解と協力を得て行う心身の発達に応じた教育」の追加
2)「すべての国民が安心して生活することができるよう留意する指針の策定」を新設
3)「民間の団体等の自発的な活動の促進」の削除
4)「性同一性」から「ジェンダーアイデンティティ」に変更
LGBT法連合会の林夏生代表理事(富山大学学術研究部人文科学系准教授)は、「保護者の理解」が追加された点について、「理解を増進するために取り組みが必要なのに、保護者から理解されない限り、教育や啓発ができないということになる」と懸念を示す。
「すべての国民が安心して」という記述に関しても、「LGBTQ当事者が、自分は安心を脅かす存在なのかと思ってしまいそうで辛くなる。胸が張り裂けそうだ」(林代表理事)。
マリッジ・フォー・オール・ジャパンの松中権理事は、「民間の団体等の自発的な活動の促進」が削除されたことについて、「企業や自治体が積極的にLGBTQ支援を進めているにもかかわらず、活動が制限されてしまうのは悲しく、怒りを覚える」と語った。
寺原真希子弁護士は、「札幌地裁の判決では、『多数派が認めないという理由で、少数派の人権が認められないということは許されない』という見解が示された。多数派の理解を前提にしてはいけない。反対派の意見を限定的にとらえなければ、少数派の意見は消えてしまう。こうしたことは、司法で明らかになっているにもかかわらず、修正案はとても信じられない」と批判した。
