記事のポイント
- 岡山県の漁師が国内で初めて「受注漁」という消費者直販方式を始めた
- 消費者から注文の入った魚だけを獲り、余分な魚は海にリリースする
- この方式によって海の資源を守るだけでなく、操業時間の短縮や収入増加を実現した
岡山県内の漁業者が今年4月から、消費者から注文の入った魚だけを獲る「受注漁」の販売法を始めた。日本国内で初めての試みだという。余分に漁獲した魚は海にリリースするため、海の資源を守ることにつながる。漁業者にとっても、操業時間の短縮や収入増加も期待できる。(オルタナ編集部・下村つぐみ)

この漁業者は、岡山県玉野市で「邦美丸」を操業する富永邦彦さんと美保さんの夫婦だ。夏は受注漁で、魚を直販し、冬は海苔の販売を行う。2017年にインターネットの直販事業を始めた。受注漁のきっかけは、新型コロナの感染拡大だった。
飲食店や市場からの買い取りはほぼゼロになる一方で、インターネットの直販事業では一般家庭からの注文が増加した。2020年8月には、一般家庭からの注文が200件を超えたという。
消費者に新鮮な魚だけを届けようとすると、魚を多く獲らなくてはならない。それに伴って、労働時間は長くなり、燃料コストがかさむ。何よりも「魚を獲り過ぎて海の資源減少に加担してしまうのではないか」と疑問を抱いたそうだ。
富永さん夫婦は、底引き網漁で魚を獲る。網の目は通常23ミリメートルであるところを、富永さん夫婦は、より目が粗い34~50ミリメートルの網を独自で設計し、できる限り稚魚を獲らないよう配慮した。獲らなくても良い魚はその場でリリースする。弱った魚や紛れて死んでしまった稚魚も廃棄せず、訳ありボックスとして販売する。
完全受注型の漁に移行したことで、毎日漁に出る必要が無くなった。これにより漁船の燃料コストを抑えられ、プライベートの時間も取れるようになったという。仲卸を介さないため、収入も2017年と比べておよそ2倍になったそうだ。
受注漁で注文が多い魚は、タイやイカなどで、約1.5キロ当たり3400円程度と、スーパーと同じ価格設定にしているという。
漁協との関係も良いそうだ。富永美保さんは、「漁協側は初め、前例がないからと消極的な対応だったが、説明をしていく中で、初の事例に対応するためのルール作りに協力してくれた。今では、漁業を盛り上げてほしいといった言葉ももらっている」と話した。
受注漁をきっかけに、遠方からも漁師として働きたいという声も届いた。富永さん夫婦は、新たな漁師を育成するため、会社設立を目指す。5月に実施した受注漁の「クラウドファンディング」では、目標の100万円を上回る133万円余りが集まった。