記事のポイント
- 大雨による被害を受けた秋田県を支援するため、IT企業経営者が動き出した
- クラウドワークスなど約60社のIT企業経営者からなる災害支援団体だ
- IT業界のヒト・モノ・カネを災害支援に生かす
記録的な大雨による被害を受けた秋田県を支援するため、IT企業経営者が動き出した。クラウドワークスの吉田浩一郎社長率いる一般社団法人災害時緊急支援プラットフォーム(東京・渋谷、以下PEAD)だ。同団体は2020年に立ち上がった災害支援団体だが、マネーフォワードやラクスル、READYFORなど成長著しいIT企業の経営者ら64人が会員だ。ITの力で災害支援を加速する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

PEADは7月22日、秋田市と五城目町の視察を行った。視察に行ったのは、PEADの吉田浩一郎代表理事を含む4人の会員。秋田県は床上浸水を725棟と公表したが、被害の全容はまだ把握できていない。
吉田代表は、「現地では、床上浸水の被害は約1万棟という声もあった」と話す。深刻な被害状況に、「これまで生きてきて、これほどの被害は初めてとおっしゃる方が多かった」。市内中心部も浸水し、秋田駅前のロータリー周辺は冠水した。

一方で、五城目町の復旧のあり方については、「今後の被災地支援のモデルケースになるのではないか」と話す。五城目町は東京都千代田区と1989年に姉妹提携を結んだ。五城目町に移住した都内出身の若手起業家らも多く、その土地でコミュニティーを築いていた。
「中央集権ではなく、分散型で次々に問題解決している様は今まで見てきた被災地の中でも群を抜いて素晴らしいと感じた」(吉田代表)
行政と民間の連携も迅速で、水道も23日には復旧した。支援物資を配布する体制もできつつあるという。
だが、課題は多い。床上浸水した家屋の復旧には、泥の除去から床の張替えまで1年掛かることもある。
PEADとしては、生活のQOLの向上に取り組む。五城目町の高齢化率は47.3%で、車が浸水した場合、移動範囲が制限される。
吉田代表は、「PEADとしてバスを週に何回か出して、住民の方がお風呂や買い物、遊びに出かけられるような支援を行いたい」と構想を話す。夏休みには、飲食店向けの復興支援として、シェフを派遣して料理教室も企画したいという。

■IT業界のリソースを復興支援に
PEADは2020年にできた災害支援団体だ。東日本大震災の復興支援に関わったことを機に、災害支援に関心を持った吉田代表が知り合いのIT企業経営者らに声を掛けて立ち上げた。
辻庸介・マネーフォワード社長、藤沢烈・一般社団法人RCF代表理事、松本恭攝・ラクスル社長、米良はるか・READYFOR社長、山野智久・アソビュー社長の5人が設立発起人・理事だ。
2023年5月時点で、会員には山田進太郎・メルカリ社長、村上太一・リブセンス社長、井上高志・ライフル社長ら58人の経営者が名を連ねる。
PEADは、緊急時に迅速に判断できるように、法人ではなく、利害関係のない個人の集まりからなる。社会課題の資金提供に強みを持つ会員が多く、IT業界のリソースを被災地の復興支援に生かすことが狙いだ。

特に被災現場では、支援団体がペンとノートで物資管理していたり、行政は公平性の観点から個別事情に対応したりすることができないことがある。ボランティアのマッチングも課題だ。
それらの課題に対応できるよう、平時から行政との連携を図ったり、ボランティア希望者への研修を行ったりしている。これまで豪雨被害を受けた、熊本県人吉市や千葉県館山市、佐賀県武雄市などで支援活動を展開してきた。
吉田代表は、「IT企業で働く人は、リアルの現場で人がどのようなことに困っているのか実感できないことがある。被災地との接点をつくるだけでも意味がある。IT業界と被災して困っている方の橋渡し役になりたい」と強調した。