連載: 曲がり角のカーボンニュートラル(3)
記事のポイント
- 世界の大手企業2000社のうち、ネットゼロ目標を掲げる企業は929社に
- しかし、ネットゼロ基準に「整合」する企業の割合は、4%にとどまった
- MS&AD、セブン&アイ、東京海上、ヤフーの4社は期限内にSBTiに目標を提出できなかった
気候変動に対応するため、「1.5度目標」を実現しようと野心的な目標を掲げる企業は増えているが、進捗はまだら模様だ。英シンクタンクによると、世界の大手上場企業2000社のうち、ネットゼロ目標を掲げる企業の数は929社に上った。しかし、そのうち「ネットゼロ」の定義に整合する企業の割合は、4%にとどまった。(オルタナ副編集長=吉田広子)
(目次)
■厳格化する「ネットゼロ」の定義
■製薬・小売り ・インフラ部門で目標設定の遅れ
■アマゾンやセブン&アイなどがSBTiに目標を提出できず

■厳格化する「ネットゼロ」の定義
「カーボンニュートラル」と「ネットゼロ」は、CO2排出量と吸収量を「中立」にするという意味で、同じように使われる。しかし、「ネットゼロ」は「カーボンニュートラル」よりも厳格で、排出カバー範囲も広く、より野心的だ。
企業が自主的に定めた多様なルールが乱立しているため、科学に基づく目標設定イニシアチブ(SBTi)は2021年10月、世界で初めて「ネットゼロ基準」を発表した。
「ネットゼロ」の主な要件として、スコープ3を含めたサプライチェーン全体で、すべての温室効果ガス(GHG)排出量を削減することなどを求める。
2022年12月にエジプトで開いたCOP27(第27回気候変動枠組条約締約国会議)では、国連の専門家グループが「ネットゼロ」の基準を提言した。化石燃料への投資を続けたり、森林破壊に加担したり、安価なカーボンクレジットで相殺したりした場合は、「グリーンウォッシュ」(環境に配慮しているようにごまかすこと)だと厳しい姿勢を示した。
■製薬・小売り ・インフラ部門で目標設定の遅れ
気候変動に関する英シンクタンクや英オックスフォード大学などが共同で立ち上げた「ネットゼロ・トラッカー」は6月、年次報告書「ネットゼロ・ストックテイク2023」を発表した。
ネットゼロ・トラッカーは、排出量上位25カ国、人口50 万人以上の都市、世界の大手上場企業2000社を対象に、気候変動対策を分析した。
同報告書によると、ネットゼロ目標を掲げる大手上場企業の割合は、2年余りで417社から929社と増加した。しかし、ネットゼロ基準に整合する企業の割合は、4%(38社)にとどまった。