記事のポイント
- 岸田文雄首相がPRIの年次総会「PRI in Person 2023」で講演した
- 7つの公的年金がPRIに署名するように調整していることなどを明かした
- 金融庁には「サステナ投資商品の充実に向けたダイアログ」を設置するという
岸田文雄首相は10月3日、国連責任投資原則(PRI)の年次総会「PRI in Person 2023」に登壇した。金融庁に「サステナ投資商品の充実に向けたダイアログ」を設置することや、運用総額90兆円規模の7つの公的年金がPRIに署名するように調整していることなどを明かし、ESG強化を図る。講演内容を紹介する。(オルタナ副編集長=吉田広子)

2023年10月1日時点で、PRIの署名機関の数は世界で5337に上る。国別にみると、米国は1064、UK&アイルランドが845、中国は138、日本は125だ。日本が伸び悩む一方で、中国の署名機関数は急増し、逆転を許した。
日本では、世界最大の年金基金である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が2015年にPRIに署名し、ESG投資が拡大した。しかし、その後、公的年金の署名は進まず、課題となっていた。それを今回、岸田首相がPRI署名に向けて推し進めた形だ。
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(岸田首相スピーチ全文)
日本でPRIの年次総会を開催できることを嬉しく思います。9月25日から10月6日まで、「Japan Weeks」とし、「PRI in Person」を中心にグローバルなイベントを連日、日本で開催しています。
この中で、日本で生じつつある大きな変革、とりわけ社会課題の解決と持続的な成長へ向けた官民の取り組みを世界に発信したいと考えています。
気候変動をはじめとする社会課題を解決し、持続可能な成長を実現するためには、金融の力が必要と考えています。
日本には2100兆円を超える家計金融資産があります。現在、その大半は貯蓄ですが、これを投資へシフトするための政策パッケージを推し進めています。この投資は、日本のみならず、世界にとって持続的な成長に貢献するでしょう。
気候変動のほかにも、高齢化、災害への対応など、日本が直面する社会課題は多岐にわたります。しかし、社会課題は同時に潜在力になり得るものです。
日本には「災い転じて福となす」という言葉があります。高齢化は、世界の多くの国も今後直面する課題です。自然災害への対応は、気候変動の影響が顕在化する中で、世界に緊急性が高まっています。
課題推進国としての日本の経験と成果、世界の課題解決のために積極的に貢献していきます。カギとなるのは科学技術を持つ企業の力です。
東京大学で電子情報学を学んだ若い日本の研究者が立ち上げたスタートアップや、伝統的な印刷技術を電子回路基板に応用し、金属材料を7割削減し、CO2排出量を4分の1、必要な水の量を5%にする製品を開発しました。
こうした新たな技術は社会課題の解決に不可欠であり、ひとたび実装されると、同じ課題に悩む世界の人々の役に立ち、大きな市場を開く可能性があります。
世界の課題解決に貢献し、持続的な成長を実現する企業活動と投資を促すために、特に重要な日本の政策を4つ紹介します。
[この後の記事内容]
■「クライメートトランジションボンド」を23年度に発行
■金融庁に「サステナ投資商品の充実に向けたダイアログ」
■24年前半に「アジアGXコンソーシアム」を設立
■スタートアップ支援、投資額を5年で10兆円に
■人的資本の充実は日本と世界の最優先課題
■7つの公的年金基金が新たにPRIに署名へ