マザーハウス、42歳のバングラデシュ現地出身工場長を取締役に登用

記事のポイント


  1. マザーハウスは12月16日、バングラデシュ人工場長の役員就任を発表した
  2. 工場長は2008年から革職人として工場に勤める、現地出身の「叩き上げ」だ
  3. 同社は、進出先の人材を積極的に登用するグローバル人材戦略を掲げる

バッグや洋服、ジュエリーなどを手がけるマザーハウス(東京・台東)は12月16日、バングラデシュ工場長が取締役に就任することを発表した。同社は、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」ことを企業理念に、途上国の素材や職人技術を活用したモノづくりを軸に成長を遂げてきた。現地人材の取締役抜てきは、進出先の人材を積極登用するグローバル人材戦略にも沿う。(オルタナ編集部・北村佳代子)

マザーハウスのマムン新任取締役

「私はずっと、自分の成功ではなく、母国も含めた自分『たち』の成功を夢見てきた。マザーハウスのようなフィロソフィーを持っている会社はほかにない。取締役への就任には、私自身も最初は驚いたが、工場にとっても、バングラデシュにとっても誇れることだ。精一杯尽力したい」

取締役に就任したムハンマド・アブドゥラ・アル・マムン工場長は、同社が都内で開催した顧客向けトークイベントで、意気込みを語った。

12月16日に都内で開催されたトークイベントの様子

■バングラデシュの他工場と大きく異なる、マザーハウスの「第二の家」

マザーハウスは、生産地の職人たちが安心して技術を発揮できるよう、「第二の家」をコンセプトに、働く環境の整備を第一に考えて推し進めてきた。「マザーハウス」という社名にも、働く仲間たちと家族のようなつながりを持ちたいという意思を込めている。

バングラデシュの労働環境は一般的には劣悪な印象が強い。

10年前の2013年4月には、縫製工場「ラナプラザ」が崩落し、1136人が亡くなる事故が発生した。この崩落事故を契機に、ファストファッション業界におけるサプライチェーン上の人権を軽視した劣悪な労働環境が、「ビジネスと人権」として問題視されるようになった。

バングラデシュでは2023年11月にも、縫製工場の労働者らが政府に対し、賃金水準の引き上げを求めて大規模なストライキを起こしている。

バングラデシュの国内情勢をよく知るマムン取締役は、マザーハウスのマトリゴール工場が、他の工場と大きく異なる点を、イベント内で説明した。

「バングラデシュでは通常、工場の職人はオーナーと話をしてはいけないという風習がある」

「マトリゴール工場は違う。とても頻繁に話をするし、絵理子さん(山口代表)や山崎さん(取締役副社長)など日本のスタッフが来れば、日本の顧客がどのように製品を使ってくれているのかという情報や、今後の未来の姿についての考えも共有される。これは他の工場には決してないことだ。職人のモチベーション、マザーハウスで働く誇りにつながっている」

精神面だけではない。会社が提供する経済的な支援や、人材育成の機会も大きい。

「退職基金や生命保険、ローンの組成にも会社は支援する。労働時間も就業規則を厳格に適用し深夜勤務は全くない。定期的に健康診断もある。未経験者を採用し、社内で育成することで成長や昇進機会があるのも大きなモチベーションになっている」とマムン取締役はオルタナに回答した。

■「途上国から世界に」の思いが現地の優秀な人材を惹きつける

マザーハウスは2006年のバングラデシュを皮切りに、現在はネパール、インド、インドネシア、スリランカ、ミャンマーも含めた計6カ国で、現地の素材を活かしたバッグ、ジュエリー、ストール、洋服などを生産する。それら製品は、日本のほか台湾、シンガポールのマザーハウス販売店が直販する。

マムン新取締役が率いる同社マトリゴール工場は、バングラデシュの首都・ダッカに位置し、バッグや麻(ジュート)製品を生産する。同工場には現在、約330人が勤務する。

ダッカ大学で皮革工学(レザー・エンジニアリング)を専攻したマムン氏は、大学卒業後、バングラデシュ国内大手のバッグ工場に就職した。その後、「途上国から世界に通用するブランドをつくる」という強い思いを持つ山口絵理子代表取締役兼チーフデザイナーと出会い、フィロソフィーに感動して2008年にマザーハウスに加わった。

マザーハウスを創設した山口代表は、トークイベントの中で、「生産性や管理手法などの高い専門性を備えたマムンさんは、入社当初は工場長という肩書きがピッタリと感じた。大学で皮革工学を学んだ彼の経験や知見がなければ世に出せなかった革製品がこれまでにも多々あった」と振り返る。

「コロナ禍では、スタッフを守ろうとする彼のマネジメントとしての意識や責任の高さが見られた。工場での組織運営を見ても、みんなと一緒にフラットに議論をしながら物事を進める彼のスタイルが、後世のリーダーの成長にもつながっている」と、ガラス張りの工場長室の様子を見せながら紹介した。

「マムンさんが入社してちょうど15年になる。これまで現場で彼の頑張る姿に、私自身も背中を押されながら二人三脚でやってきた。その過程で肩書きなどは関係なかった。それが今回、こうしてポジションを用意できたこと、頑張った分だけ報われるという実績を会社として作れたことが、とても嬉しい」。山口代表は、涙ながらに思いを語った。

マトリゴール工場のマムン工場長室内の様子。
マムン氏は、みんなとフラットに議論をしながら物事を進める

■生産地人材の役員登用で、目指すは「もっとグローバルな企業」

マザーハウスでは、インドなどの他の生産国のマネジメントも現地の若手人材が担う。

今回の人事は、そうした彼らにとっても「夢のある意思決定」だと、同社の山崎大祐代表取締役副社長はイベント内でコメントした。

山口代表は、「マムンさんの意見を、モノづくりだけでなく販売の意思決定にも反映し、産地からのプロダクトアウトの新しい提案をマーチャンダイジング(商品化計画)に組み込むことで面白いモノを生み出したい」と期待する。

「そして他の生産地でも、マムンさんの後に続くリーダー人材の育成にも貢献してほしい。今回取締役会にマムンさんを迎え、マザーハウスをもっとグローバルな企業にしていきたい」(山口代表)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

北村(宮子)佳代子(オルタナ輪番編集長)

オルタナ輪番編集長。アヴニール・ワークス株式会社代表取締役。伊藤忠商事、IIJ、ソニー、ソニーフィナンシャルで、主としてIR・広報を経験後、独立。上場企業のアニュアルレポートや統合報告書などで数多くのトップインタビューを執筆。英国CMI認定サステナビリティ(CSR)プラクティショナー。2023年からオルタナ編集部、2024年1月からオルタナ副編集長。

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