EUのPFAS全面禁止規制案、日本まさかの反対

記事のポイント


  1. 国の暫定指針値を超えたPFASの検出が日本の各地で相次ぐ
  2. EUはPFASの製造や使用を全面禁止にする規制案を発表した
  3. それに対し、日本の経産省や経団連はまさかの「反対」を表明した

国の暫定指針値を超えたPFAS(有機フッ素化合物)の検出が日本の各地でも相次ぐ。PFASは長期間残留することから、環境への影響や健康被害の懸念がある。EUはPFASの製造や使用を全面禁止にする規制案を発表したが、日本の経産省や経団連はまさかの「反対」を表明した。(オルタナ編集委員=栗岡 理子、副編集長=吉田 広子)

PFASとは、有機フッ素化合物の総称で、1万種類以上の物質があるとされている。PFASは、水や油をはじき、熱に強いといった特性から、調理器具の焦げ付き防止や衣料品の防水・撥水加工、食品包装、化粧品、泡消火剤、半導体など、世界中で幅広い製品に使われている。

自然界ではほとんど分解せず、長期間残留することから、「永遠の化学物質」と呼ばれる。環境汚染に加え、がん、肝臓や心臓への影響、子どもの発達や免疫系への影響など、さまざまな健康影響が懸念されている。

1990年代に米国で、化学メーカーのデュポンに対し、PFAS汚染の補償を求めた大規模な訴訟が起きたことをきっかけに、世界で規制強化が進んだ。

PFASのうち、「PFOS(ピーフォス)」「PFOA(ピーフォア)」「PFHxS(ピーエフヘクスエス)」の3物質は、国連の有害化学物質を規制するストックホルム条約(POPs条約、2004年発効)で廃絶対象になった。

日本では、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、PFOSは10年4月、PFOAは21年10月、PFHxSは24年6月に製造と輸入を禁止した。

■大阪府摂津市で基準の420倍

ではなぜ、全国各地で高濃度のPFASの検出が相次ぐのか。それは、分解のしにくさ、残留性や蓄積性、長距離を移動するといった特性に由来する。

環境省は19年度に、水環境のPFASの濃度を測定する国的な調査を開始した。国が定める暫定指針値は、50㌨㌘/㍑(PFOS・PFOAの合算)だ。しかし、22年度の調査(24年4月公表)では、大阪府摂津市の地下水で、指針値の420倍にあたる2万1千㌨㌘/㍑(PFOS・PFOAの合算)を検出した。

その原因は、大手エアコンメーカー・ダイキン工業の淀川製作所と見られる。同社は1960年代から、他社から購入したPFOAを取り扱い、1980年代に製造を始めた。

同社は、「摂津市の地下水の状況は、当社の製品が原因の一つとの認識」とし、現在は浄化活動に取り組む。摂津市は、「水道水から指針値を超える数値は検出されていない」として、水道水の安全性を強調する。

しかし、市民団体「大阪PFAS汚染と健康を考える会」などが実施した血液検査では、摂津市の住民らから高濃度のPFASが検出され、不安が広がっている。

ダイキン工業はオルタナの取材に対し、「現時点で当社が血液検査を実施する予定はない」と答えた。

大阪PFAS汚染と健康を考える会の長瀬文雄事務局長は、「『大丈夫』と言われても、その根拠がない。除染対策についても、つまびらかに明らかにするべきだ。『正しく恐れ』ながら、市や事業者に情報公開を求めていきたい」と語る。

問題は摂津市だけでない。環境省の水質調査は、38都道府県の1258地点で行われ、このうち111地点で暫定指針値を超えた。

地下水の調査では、神奈川県綾瀬市で1800㌨㌘/㍑、大分市で1200㌨㌘/㍑、東京都立川市で620㌨㌘/㍑、東京都渋谷区で460㌨㌘/㍑、兵庫県尼崎市や西宮市で200㌨㌘/㍑を超える値が検出された。 沖縄県では、米軍基地周辺で、2千㌨㌘/㍑前後の高い値を検出している。

(この続きは)
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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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キーワード: #ビジネスと人権

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