記事のポイント
- 生ジョッキ缶の開発者がプラスチック製品の循環利用に挑む
- 広島県と組んで宿泊施設の廃棄プラスチック製品を歯ブラシに
- ビジネスモデルとして回収しやすいデザインを追求する
資源循環に取り組むアサヒユウアス(東京・墨田)は7月8日、使用済みプラスチック製品を回収し、新たなプラスチック製品を開発するプラットフォームを立ち上げた。広島県内の宿泊施設と組み、歯ブラシの水平リサイクルに挑む。仕掛け人は、大ヒット商品「生ジョッキ缶」の開発者だ。(オルタナ副編集長=池田 真隆)
■子どもの誕生を機に働き方を「ソーシャルグッド」へ
アサヒユウアスはアサヒグループが2022年1月に立ち上げた会社だ。同グループのリソースを生かして、企業やNPOと共創して社会課題の解決に取り組む。社名の「ユウアス」は「ユー」と「アス」を掛け合わせた。
実はこの会社はトップダウンではなく、ボトムアップでできた。社内で新会社を立ち上げるべく動いたのが、ミレニアル世代の中堅技術者・古原徹氏だ。
古原氏は、「アサヒスーパードライ 生ジョッキ缶」の生みの親で、グッドデザイン賞を受賞した「六条麦茶 江戸切子デザインボトル」のデザインも手掛けた技術者だ。

子どもが生まれたことを機に、古原氏は社会課題の解決につながる働き方にシフトすることを決めた。こうして、新会社「アサヒユウアス」の設立を上司に直談判したのだ。
アサヒユウアスでは、リユースできる「森のタンブラー」の開発や、廃棄される食材などを原料にした「サステナブルクラフトビール」の製造に取り組んできた。屋外イベントで使用したプラスチックカップを集めてアップサイクルする企画も行う。
■広島県、瀬戸内海へのプラごみ流出ゼロ目指す
このほど、広島県と同県内の宿泊施設などと連携し、プラスチック素材の有効活用を行う。プロジェクトの名称は、「plaloop(プラループ)プロジェクト」だ。

広島県は、2050年までに瀬戸内海に新たに流出するプラスチックごみをなくすことを目指す。ワンウェイプラスチックの削減やプラスチック代替品の利用促進などに取り組む。
アサヒユウアスは同県のプラスチック対策の一環として、同県内の宿泊施設のアメニティなどの循環利用を促す。
第一弾として使い捨てプラスチックから歯ブラシを開発する。宿泊客の使用済み歯ブラシを回収した後、素材としてリサイクルし、再び歯ブラシにする。2024年の目標として年間100万本の導入を目指す。
循環経済(サーキュラーエコノミー)の原則に則り製品製造時にリサイクル原料を最大限使った。今回製品化した歯ブラシは、リサイクルプラスチック100%が原料だ。リサイクル原料の価値を最大化するため、素材をポリプロピレンに統一し、着色しないことにした。
歯ブラシの回収の一部を福祉作業所に依頼し、障がいのある人の就労機会の創出にも貢献する。
■回収先は、「箱」ではなく「トレー」に
アサヒユウアスは広島県での取り組みに先立って、今年5月からホテル日航つくばでテスト展開を行い、全設置数の約4割の歯ブラシを廃棄することなく資源化できた。宿泊客を対象にしたアンケート調査では、約9割がこの取り組みに対して好意的だと回答した。再資源化した歯ブラシを使うことへの心理的なハードルが低いことが分かった。
歯ブラシの次は、ヘアブラシ、ヒゲ剃りの循環利用を促す予定だ。さらに、宿泊施設だけでなく、スタジアムやゴルフ場など、使い捨てプラスチックを大量に消費する場所との連携を考える。
だが、循環利用を実現するには、消費者の協力が欠かせない。どのようにして回収の効率化を図るのか。
アサヒユウアスの古原氏は、「宿泊者に自分で洗浄してもらい、箱ではなく、トレーに置いてもらうようにした。衛生的な状態で回収できることもポジティブに働いた」と話した。

素材を単一化したことも循環利用を促した。「回収後に素材を分別することは手間が掛かり、異素材の混入は品質低下にもつながる。そのため、回収後に分別しなくて済むように、入口で素材を統一した」。
売ってから回収することを考えるのではなく、ビジネスモデルとして回収を前提に置いたことも特徴の一つだと言う。