記事のポイント
- イタリアは2025年1月から全企業に大規模災害保険の加入を義務付ける
- 中小企業をはじめ、同国で災害関連の保険に加入する企業は少ない
- 気候変動で自然災害が頻発する中、法制度から企業の災害レジリエンス向上を図る
イタリアは2025年1月1日から、すべての企業に、洪水、土砂崩れなどの気候災害リスクに備える保険への加入を義務付ける。もともと同国では、中小企業をはじめ、災害関連の保険に加入する企業は多くない。気候変動の影響で自然災害が頻発する中、イタリアは法制度化を通じて企業の災害レジリエンス向上を図る。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

欧州では2009年から2023年にかけて、気候変動による損害が毎年2.9%増加した。2024年だけを見ても、ギリシャでの大規模な山火事、シチリア島での壊滅的な干ばつ、英国・中欧・スペインでの洪水で甚大な被害が出た。イタリアで、最も深刻な脅威と捉えられている自然災害は洪水だ。
イタリア中央銀行が2024年に公表した調査結果では、被災した企業は、倒産する可能性が7%高くなり、事業を継続しても被災後3年間の収入は平均5%減少した。
保険加入の義務化のねらいは、同国経済を支える企業の災害レジリエンスの向上だ。保険契約を締結しない保険会社には罰金を科す。同時に、政府系金融機関を通じて50億ユーロ(約8000億円)の再保険基金を設立する。
背景には低い保険加入率がある。自然災害リスクに対する企業の保険加入率は5%、個人の住宅保険の加入率も6%だと海外メディアは報じる。
再保険大手のスイス・リーの調査によると、イタリアのプロテクションギャップは約80%だ。プロテクションギャップとは、実際の経済的損失に対して期待される補填(ほてん)額と、付保状況とのギャップだ。
例えば、米カリフォルニア州やフロリダ州では、自然災害の頻発で保険会社が撤退する動きがみられるが、同地域のプロテクションギャップは42%とイタリアより小さい。
来月に向けて保険契約の締結が急がれるが、保険会社は、高リスク地域も含め、すべての保険引受義務を負うため、今後、米国のように、保険会社が撤退する地域が出かねないとの懸念もある。