記事のポイント
- パーパス(存在意義)を策定する企業が増えている
- その一方で、多くの企業では、パーパスの組織浸透に課題を認識している
- パーパスはなぜ組織に浸透しないのか、組織変革を進めるコーチングの視点から話を聞いた
「パーパス(存在意義)」を策定する企業が増えている。その一方で、多くの企業では、パーパスの組織浸透を課題と認識している。組織にパーパスが浸透しないのはなぜか。コーチングで企業の組織変革を支援するコーチ・エィの鈴木義幸会長に話を聞いた。(オルタナ副編集長=北村佳代子)

鈴木 義幸(すずき よしゆき)氏:
コーチ・エィ会長。慶應義塾大学文学部人間関係学科社会学卒業。米ミドルテネシー州立大学大学院臨床心理学修士課程修了。帰国後、有限会社コーチ・トゥエンティワンの設立に携わり、2001年にコーチ・エィ設立、副社長に就任。2007年から同社社長、2025年1月より現職。国際コーチング連盟マスター認定コーチ。一般財団法人生涯学習開発財団認定マスターコーチ。神戸大学大学院経営学科研究科非常勤講師。今も複数の大企業のエグゼクティブコーチを務め、企業経営者へのコーチング実績は200人超に。
■モチベーションやパッションが組織を動かす
パーパスはなぜ大事なのか。それは、人が「意味」を欲する生き物だからだ。心理学の実験でも、人は意味づけのないことを続けにくく、逆に意味づけができていれば過酷な状況でも乗り越えられることがわかっている。パーパスは事業や日々の仕事に「意味」を与えるものだ。
また我々は日々「ストーリー」を作りながら生きている。「あの時のあの出来事が今の自分につながっている」と、自分の過去や現在の行動が、未来の何につながるのか、意味を付与し、人生における自分のストーリーを構築しながら生きているところがある。
「何のために」「誰のために」がはっきりすると、やりがいを高く感じられる。「自分は何のためにこの会社にいるのか」「この会社にいることが自分の人生にどうつながるのか」。自分のパーパスと、会社のパーパスとが接地する面積が大きければ大きいほど、人は企業活動にコミットできる。
生きていると、自分の描くストーリーの枠にはまらない、異物のような事象がいろいろと起こる。例えば、お客様からの不意のクレームなどに直面した際、一人ひとりの中でパーパスが明快だと、そこに意味を見出し、「学ぶ材料」や「ステップの一つ」だと捉えてリカバリーしようと動く。結果として、生産性が上がり、自分の中の情熱も呼び戻せる。
組織は一人ひとりのモチベーションやパッションで動いている。それらを最大化するために、パーパスを組織に浸透させることは非常に重要だ。
■組織にパーパスが浸透しない3つのケース
ではなぜ組織にパーパスが浸透しないのか。私たちの経験では、大きく3つのケースがあると考える。
1つには、そもそもパーパスが心の底から大事だと思われていないケースだ。経営者だけでなく、人事や経営戦略部門がパーパスの重要性と社内共有の必要性を切実に認識し、なぜ重要なのかを言語化して周りに伝えていくプロセスを辿らないと、組織に強力には浸透しない。
2つ目は、パーパスの浸透施策に問題があるケースだ。パーパスの重要性を骨身に沁みてわかってはいるけれど、どうすれば社内に浸透するのかがわからない。これについては有効な浸透施策とそうでない施策とを、我々の経験をベースに後述する。
3つ目は、パーパスの重要性や有効な浸透施策を理解していても、パーパスの浸透そのものには緊急性がないので、目の前の重要かつ緊急なことを優先してしまっているケースだ。
■パーパスについて「対話」をしよう
今の時代、会社はもはや、社員が一生働く場ではなくなっている。一人ひとりの社員がそれぞれの価値観をもって、その会社に集まっている。そう考えると、パーパスを組織に「浸透させる」という言葉が示すような、上から下に落としていくイメージでパーパスを授けることは組織に浸透させる上では有効ではない。
同時に、社員の側から見ても、「会社のパーパスは、会社側が説明するものだ」と捉えていては理解が深まらない。社長から新入社員に至るまで、一人ひとりがパーパスのステートメントの持つ意味について自ら考え、哲学することが有用だ。
人は、問われることで深く考え、自分の中で論理を構築し、自ら解を見つけ出そうと考える。そのプロセスに「対話」が効果的であることを、私たちは組織変革を支援する中で、数多く経験してきた。
■「パーパス実現のために何をするか」の問いは効果薄
■パーパスを考え続けることが組織の変革に