記事のポイント
- 国際海事機関の加盟国は、船舶からの排出削減の新たな枠組みに合意した
- 船舶からの排出量を段階的に規制し、基準を超えた船舶に負担金支払いを義務づける
- 海運の脱炭素化で、バイオ燃料など船舶向け低炭素燃料の需要拡大が見込まれる
国際海事機関(IMO)は4月11日、世界を航行する船舶の温室効果ガス(GHG)排出削減に向けた新たな枠組みに加盟国が合意したと発表した。段階的に、大型船の排出量に基準を設け、基準を超えて排出した船舶会社には負担金の支払いを求める。海運業界全体の脱炭素化の動きで、バイオ燃料をはじめとする船舶向け低炭素燃料の需要が大幅に拡大しそうだ。(オルタナ輪番編集長=北村佳代子)

国連専門機関の国際海事機関(IMO)を構成する各国は4月11日、IMO海洋環境保護委員会の会合で、船舶による汚染防止のための国際条約(MARPOL)の改正案として、海運業界のGHG排出削減に向けた新たな枠組みに合意した。
総トン数5000トン以上の大型外航船に、段階的に排出量の削減を義務付ける燃料基準を設けるほか、業界内でのカーボンプライシングを設計し、排出基準を超える船舶が負担金を支払う規定も盛り込む。その負担金は、ネット・ゼロ基金を新設し、船舶による排出量削減の支援に充当される見通しだ。
IMOのアルセニオ・ドミンゲス事務局長は、「気候変動と闘い、海運業界を近代化する新たな一歩となる」と今回の合意の意義を強調した。今後、2025年10月に加盟国による正式な採択を経て、2027年に発効し、2028年から適用となる。
国際海運のGHG排出量は、世界全体の排出量の約2%を占める。IMOによると、そのうち貨物船の排出量が海運業界全体の85%を占める。
IMOは2023年、国際海運における「2050年頃のゼロエミッション」を目標に掲げている。
(この続きは)
■交渉離脱の米国は報復をちらつかせる
■「1.5℃目標達成には基準が緩い」との声も
■バイオ燃料には大きな追い風に
■交渉離脱の米国は報復をちらつかせる
今回のIMOでの交渉を前に、米国はトランプ政権からの書簡を参加国に送り、会合に欠席した。
その書簡を入手した複数の海外メディアによると、「米国または米国国民の利益に不当または不公平な負担を強いる国際的な環境協定は受け入れない」との立場を明確にした。
そして、米国船に不公平な措置が実施されれば、経済的損害を米国国民に補償するための報復措置を検討する用意があることもちらつかせた。
■「1.5℃目標達成には基準が緩い」との声も
気候変動の影響をすでに受けている小島嶼国の多くは、最終投票で棄権した。気候変動に脆弱な国々は、炭素税を課すことを提案していた。また、設定する排出削減の基準値についても、少なくとも初期の段階では、野心的な基準とはならない可能性が高い。
ツバルのサイモン・コフェ交通・エネルギー大臣は、「世界の経済大国から提示された代替案は弱々しい。産業革命以前の水準から1.5℃の気温上昇に抑えるという目標への道筋にはつながらない。私たちが最も大きな損失を被るというのに、彼らは私たちに妥協を求めた」と失意を漏らした。
英海事系コンサルティング機関のUMASによると、排出削減量は2030年までに約8%を見込んでおり、2030年に策定したIMOの気候戦略が目指す20%削減には大きく届かない。
英慈善団体のオポチュニティ・グリーンは、「IMOは歴史的な決定を下したが、結局は気候変動の影響を受けやすい国々を救うには至っていない。気候危機下で求められる野心的な取り組みについても、わずか2年前に加盟国が誓った公約に及ばない」と断じた。
■バイオ燃料には大きな追い風に
世界の輸送手段を見ると、自動車は電動化、航空機はSAF(持続可能な航空燃料)活用の方向に動きつつある。船舶の燃料はどうなるのか。
ロンドン大学のトリスタン・スミス准教授は、「バイオ燃料にとって大きな追い風だ」との見方を示す。今後5年間は世界の船の85%が規制遵守に動くということは、「需要が数千万トン増えることを意味する」とガーディアン紙に語った。
グリーン水素業界も今回のIMOの合意を歓迎する。
グリーン・ハイドロゲン・オーガニゼーションのジョナス・モーベリCEOは、「IMOの決定は、グリーン燃料企業にプロジェクトを進めるよう重要なシグナルを送るものだ」とし、水素燃料の一種であるグリーンアンモニアへの需要拡大に期待を寄せた。