■私たちに身近な生物多様性(17)[坂本 優]
今、空前のネコブームだという。今年(2016年)5月、福島の芦ノ牧温泉駅の猫駅長「ばす」の社葬が営まれ、多くのファンが集まったことがテレビで報じられた。昨年は、和歌山の貴志駅の猫駅長「たま」の葬儀が話題となった。私の職場の近くにも猫カフェがある。
ペットとして飼われる数は、今年はイヌを上回るとも予測されている。
一方、その陰で、野生化したネコ、ノネコが希少種に与える悪影響が特に離島において大きな問題となっている。

この深刻な実情を広く啓発するとともに、今後の希少種保全のためのノネコ対策について議論すべく、環境省主催によるシンポジウムが2月、福岡市で開催された。昨年は東京、大阪でも開催されている。
北海道の天売島におけるウトウ、ウミスズメ、小笠原諸島におけるアカガシラカラスバト、オガサワラオオコウモリ、奄美大島、徳之島のアマミノクロウサギ ケナガネズミ、沖縄の山原(やんばる)におけるヤンバルクイナ、ケナガネズミ、ナミエガエルといった貴重な固有種が、ノネコの捕食によって大きな影響を受けている。鳥類や小さな生きものばかりでなく、西表島のイリオモテヤマネコや対馬のツシマヤマネコでさえも、捕食されることはなくとも、餌の競合や縄張り争いによる受傷、ネコエイズなどの伝染病感染の危険性、また遺伝子撹乱のおそれなど、種の存続に関わりかねないノネコの脅威を直接的に受けている。
一連のシンポジウムは、このようなノネコ等が希少種の生息に大きな影響を及ぼしている事例等を広く周知し、希少種保全におけるノネコ対策の必要性について共通の認識を深めることが目的だ。具体的事例を含め、ノネコの捕獲、順化等の取組みを紹介し、新しい飼主探しへの協力も呼び掛けている。
ネコによる希少種捕食の深刻な影響を象徴する有名な事例として、「灯台守のネコ」の話しがある。