■私たちに身近な生物多様性(20)[坂本 優]
「私たちに身近な生物多様性」と題するこのコラムが20回を迎えるにあたり、私が会社員をしながら、このような発信を行う契機ともなった、工場内でのバードサンクチュアリ開設の取組みについて記したい。
私は、2000年7月から4年間、三重県四日市市にある味の素株式会社の工場、東海事業所に勤務していた。

工場敷地の東北、幹線道路に挟まれた一角に約4500㎡の大きな池があり、池の周囲は、敷地の境界沿いを、工場設立以降に植樹されたクスやサクラを中心とした外周林が連なり、岸辺近くは、松、ツツジ、サツキ、ツバキ、トベラなどが植えられていて、それらの茂みを縫うようにアスレチックコースを兼ねた遊歩道があった。ただ、約25万㎡の広大な敷地の奥まった一角であり、従業員の高齢化もあって、利用者はほとんどいなかった。
私自身は着任後、特段の予定のない限り、昼休みはほとんど、池の周囲を散歩していた。そして、野鳥の生息密度の高さに驚いたのがきっかけで、トレーニングとしてではなく自然観察として歩いてみると、日々、小さな感動と様々な発見があった。
遠くからハクセキレイ(大都市含め世界中に分布)と思って眺めていた白黒ツートンカラーのセキレイの多くは、ほぼ日本固有種で比較的自然豊かな限られた水辺に生息するセグロセキレイだった。コイと思っていた大きな魚の少なからずは、外来種の影響で数を減らしているフナだった。

チョウのようにふわりと舞うトンボ、チョウトンボを初めて観察したのもこの池だった。私はそれまでチョウトンボを図鑑でしか見たことがなく、メタリックブルーのトンボとの思い込みがあった。あるとき、植物をはじめ生きものに詳しいベテラン従業員の方から、チョウトンボもいるとお聞きした。
数日後、それまで日差しのなか、黒い影しか印象に残らなかったトンボがチョウトンボだと気づいた。しばしその姿を追い、イグサの先端などに止まった瞬間の深い紺色にいたく感動した記憶がある。カワセミを初めて見たのも、撮影したのもこの池のほとりだ。