
2017年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第45代アメリカ合衆国大統領に就任した。近年例を見ない低支持率での船出となった新政権のもとで、エネルギーやクリーンテクノロジーはどうなるのだろうか。サステナブル・ブランド会議のアドバイザリーボード・メンバーであり、エネルギー、サステナビリティ分野で多くの大企業のアドバイザーを務めるアンドリュー・ウィンストン氏に聞いた。(カリフォルニア州サクラメント・藤 美保代)
トランプ新政権が社会に与えるインパクト
―ついにトランプ政権が始動しますが、見通しは?
ビジネスの環境・社会への取り組み、例えば気候変動、クリーン経済の構築、労働格差や最低賃金の是正、幅広いヘルスケアの拡充などに、新政権がどのような影響を与えるか、まだ不透明です。とはいえ、今のところ明るい要素はあまりない。連邦環境庁(EPA)の長官には、気候変動否定派で、EPAを何度も訴えてきた人物が、労働省長官には、残業手当や最低賃金の引き上げに強硬に反対する人物が任命された。国務長官はエクソン・モバイルのCEOですが、エクソンは気候変動を一貫して否定しています。また、新政権はパリ合意やクリーンエネルギー関連の活動からの撤退を考えているとも漏れ聞こえています。
―サステナビリティは冬の時代に入ると?
いえ、連邦レベルでの逆風があったとしても、気候変動に対する世界的な取り組みは進んでいくでしょう–州、地方自治体、そして民間を主体として。企業はこれまでになく強いリーダーシップをとっていく必要があるし、そうなっていくはずです。悲観的になる必要はないと、私は思いますよ。
少なくとも、世界が向かっている大きな流れ、メガトレンド(下記参照)は、合衆国大統領といえども止められるものではない。もちろんアメリカ国内の動きが鈍化する可能性は否めませんが、世界は広いのです。
―クリーンテクノロジーは逆境に立たされるのでしょうか?
トランプ氏とて、今のクリーン経済の勢いは止められない。例えば、太陽光・風力発電のコストは2010年に比べて6割から8割も下がり、今や多くの州で、化石燃料よりも安くなった。しかもこのコストメリットは、すでに補助金なしで成立しています。もちろん政府からの補助は追い風ですが、いずれにしてもクリーン経済はすでに各州に経済的メリットをもたらしているので、議会における太陽・風力へのサポートは安泰だといえるでしょう。共和党(政権政党)のチャック・グラスリー上院議員も、もしトランプ氏が風力発電の税額控除を廃止するとなれば、「議員生命を賭けて阻止する」と言っています。
企業の多くが気候変動は「リスク」だと気づいている
―ビジネス界の気候変動対策への取り組みは、これからも続いていきますか?
大筋そうでしょう。なぜなら、気候が実際に変動しているからです。もはや事態は、「パリ合意を遵守するために、あるいは排出権取引や省エネ基準があるから、政府から言われてやる」というレベルではない。企業はすでに、気候変動の結果である異常気象による実際の金銭的被害に直面しています。
私は、ケロッグのジョン・ブライアントCEOが、2015年12月にパリ(COP21)でプレゼンした際に同席しましたが、彼は並み居る経営陣、外交官を前に、気候変動対策を取ることは、ケロッグにとって「ミッション・クリティカル(不可避の使命)」である、と発言しました。