■トップインタビュー(61)牛山 大輔(ハリウッド化粧品グループ 社長)
聞き手・森 摂=オルタナ編集長、池田 真隆=オルタナS編集長
メイ・ウシヤマ氏が1925年に創業したハリウッド化粧品は、「女性目線」を守りながら成長を続けてきた。従業員の7割を女性が占め、女性の立場に立って商品づくりを行う。牛山大輔社長はコロナ禍で企業が生き抜くには、「パーパスが重要だ」と強調する。

──阪神淡路大震災の3年後にNPO法(特定非営利活動法人促進法)ができたように、これまでも大規模な災害が企業と社会の関係性を変えてきました。コロナ禍で日本や日本企業はどう変わるでしょうか。
企業や組織のパーパス(存在意義)がより一層、大事になってくると思います。グループ会社で美容サロンを展開していますが、自粛期間にご自身では髪の毛が洗えないご年配の方から、「どうしても気分が悪いので洗ってもらえませんか」と連絡を受けました。
感染を恐れたスタッフもいましたが、対応したことで、美容が世の中に貢献できることを再確認しました。存在意義を見つけたようです。
3月下旬には自社工場で、ハンドローションを急きょ作りました。美容業を営んでいたのでアルコールはありました。ヒアルロン酸入りで保湿効果もあるこのハンドローションはニーズに合致して、続々と売れたのですが、今度はポンプのヘッド部分が国内から無くなりました。
中国から取り寄せるにも時間がかかるので、振り出し式の容器に入れて販売しています。通算で2万個以上売れました。すでに国内ではアルコールが手に入りにくい状況なので、酒造業を営む友人から醸造用のアルコールを譲ってもらっています。
■コロナ収束後は衛生と寛容の時代
工場のスタッフには、感染しないように班を分けて、時短で働いてもらっていますが、生産が追い付かないでいると、自宅待機中のスタッフから「工場が忙しそうなので、何か手伝えることはありませんか」と自発的に声が上がってきたのです。
当初は感染リスクから工場を手伝うことに反対する声がありました。スタッフの意識が変わってきたと実感しています。
──今後の日本社会はどうなると予測しますか。
年内は混乱状態が続くと思います。働き方や会社のあり方も大きく変わるでしょう。
そうした中で、今後の社会のキーワードは「衛生」と「寛容」だと予測しています。
コロナが沈静化しても、掃除や手洗いの頻度は増えると思いますし、自動ドアなどタッチレス化も進むはずです。
そして、寛容の時代になると思います。今回のコロナ禍で、リスクを背負ってがんばる医療従事者や経済的に困窮する貧困層に目を向けたように、弱者や困っている人への支援は増えていくでしょう。
311で寄付文化やボランティア文化が生まれたように、今回のコロナで衛生と寛容が根付くとみています。
──経営者として、サステナビリティをどのように追及していきますか。
世の中に膨大な情報が溢れているので、まず自分の目でしっかりと情報を確認してフェイクニュースを見極めることが大事です。今回のコロナ禍は世界で同時進行しているので、国際関係を意識しながら、サステナビリティを追及したいと思います。
もともと人類は、都市に政府機関や産業などを集積させることで文明を生み出し、進化してきました。しかし、今回のコロナ禍で、都市そのものが脆弱だと分かりました。
都市化はゴールではなかったのです。都市化よりも、環境や自然との共存が社会には欠かせないと明確に分かりました。環境への対応は強化していきたいと思います。

■動物実験しない創業当初から
──1925年の創業当初から「女性目線」を大切に守り続ける理由は何でしょうか。
ハリウッド化粧品は祖父母である清人とメイ・ウシヤマが創業しましたが、80年代から社長にメイ・ウシヤマが就任すると、彼女の影響力は大きく、自然と女性が活躍しやすい環境ができてきました。
現在、社員の7割が女性で、役員と課長以上の35 %が女性です。経営会議に参加する半数は女性が占めます。育休は30年以上前に導入しました。元工場長の常務取締役は出産して、ずっと当社で働いています。
本社と工場問わず女性を雇用してきたことで、顧客としても、従業員としても常に女性の立場から物事を見ています。男性視点だけよりも、人生を豊かにする意味合いがあるはずで、大量生産できない「価値観」を受け継いできたと自負しています。
──創業当初から動物実験もしていませんね。
清人がロサンゼルスで真言宗の僧侶に助けられた経験があるため、殺生を嫌ったことが背景にあります。創業当時に指導を受けた牧師のポール・ラッシュ博士からキリスト教の自愛の精神を教わったので、自然と動物愛護にも関心を持っていました。
■「変化いとわず」祖母に教わる
──メイ・ウシヤマさんからの教えで生きていることは何でしょうか。
メイ・ウシヤマの信条は、「変化をいとわないこと」です。彼女が常に化粧品業界の第一線にいられたのは時代の変化を肯定していたからです。本社がある六本木ヒルズが再開発される時、祖父母が丹念に育てたバラや草木で生い茂った庭を潰す必要がありました。周囲は困ったのですが、本人は「変わることを楽しみましょう」と言い切ったのです。
──NPOの支援にも力を入れています。
動物愛護などのテーマで活動するNPOへの支援も積極的に展開していますが、私は米ボストンに2 年、ニューヨークに8年いて、国連との仕事もしていたので、世界的な視点を大事にしています。米国ではスミソニアンなどの博物館で気候変動など社会的課題を、ビジュアルを工夫して楽しく紹介するという企画に携わりました。
そして、母方の親族に報道写真家の名取洋之助がいます。幼少の頃から彼の写真集を見ていたので、世の中の課題に関心を持つようになり、手を差し伸べることが特別なことではないと思い育ちました。
牛山 大輔(うしやま・だいすけ)
東海大学海洋学部地球環境卒。渡米後、米国の大学卒。NYで10年程ブランディング専門家として教育、社会問題を担当。帰国後ハリウッドで美容事業を女性の社会支援や環境問題と横断させながら経営。座右の銘はBe the change that you want to see in the world.
雑誌オルタナ61号(2020年6月30日発売)から転載