プラスチック製漁具の海洋への流出防止と資源循環を目指し、企業による廃棄漁網のリサイクル事業が動き出している。廃棄されてゴミとなった漁網やロープは海中にとどまり、水揚げされることのない無人の「幽霊漁業(ゴーストフィッシング)」を続け、多くの海洋生物を殺傷してきた。ようやく国による法整備が進む中、リサイクル資源としての価値を生み出すことで漁網の流出を防ごうと、素材メーカーなどが漁協や自治体との協働を始めている。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)

繊維商社の豊島(名古屋市)は、廃棄漁網由来の再生原料を活用する取り組み「アンタングルイット」を立ち上げ、台湾産の原料でナイロン製テープを開発。7月には服飾メーカーのSHINDO(福井県あわら市)と連携した。
プラスチック関連企業約30社から成る一般社団法人アライアンス・フォー・ザ・ブルー(東京・港)と日本財団は7月、複数の事業者が力を合わせて、国内の廃棄漁網からかばんを製作したと発表した。
山本漁網(北海道厚岸町)が漁業者から不要な漁網を集め、リファインバースグループ(東京都中央区)が再生ペレットに加工。住江織物とモリトが生地や部品づくりに活用した。兵庫県豊岡市の地域ブランド「豊岡鞄」が各種かばんに仕上げ、10月1日に発売予定だ。
テラサイクルジャパン(横浜市)とWWF(世界自然保護基金)ジャパン(東京・港)は6月、共に漁網回収を進めることで合意。協賛企業を募り、全国の漁協や自治体と連携して、漁業者が使い終わった漁網を集める。未来の「漁具 to 漁具」リサイクルの実現も視野に入れつつ、まずは漁網を別のものに再生する計画だ。
WWFジャパン海洋水産グループの浅井総一郎氏はオルタナの取材に対し、「目的はゴーストギア(幽霊漁具)の発生抑制であり、リサイクルは手段。現時点では最もエネルギー負荷が低いマテリアルリサイクルを検討している」と述べた。
この取り組みによって、産廃処理の焼却によるCO2排出や、ゴーストギアによる海洋生態系や漁獲への悪影響、船舶の航行や観光ひいては地域コミュニティーへのダメージなどを減らすという。
環境省による2019年度の調査では、全国10地点の海岸に漂着した人工ごみの平均約4割が漁網・ロープで、多い地点では8割を超えた。日本近海9地点の海底でも、人工ごみの平均1割以上、多い地点では約7割が漁網・ロープだった(いずれも容積ベース)。
漁具は海上で流失したり捨てられたりするばかりではない。WWFジャパンによると、漁業者にとっては産廃処理コストが大きな負担であり、処分できず港などに野積みした使用済み漁網が悪天候などで陸から流出してしまうこともある。そこで、資源として無償で引き取るために、賛同企業を募っている。
政府の海洋プラスチックごみ対策には、漁具の陸域での回収徹底、漁業者による漁具の適正管理や代替素材への転換に対する支援などが盛り込まれている。2021年6月には「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」が成立した。官民が協力して漁具対策を進める必要がある。
◆報告書『ゴーストギアの根絶に向けて~最も危険な海洋プラスチックごみ~』(日本語版)(PDF形式:4MB)