死刑制度の廃止は世界的な潮流となり、廃止国は144と存置国の55を上回っている(2020年現在・アムネスティまとめ)。アメリカ・バイデン大統領も、連邦レベルでの死刑執行停止を表明した。これが実現したら、OECD(経済協力開発機構)37カ国で死刑があるのは日本のみになる(韓国は事実上の廃止)。SDGsに死刑廃止は明記されていないが「誰一人取り残さない」という理念から見た制度の是非とは? 10月10日の「世界死刑廃止デー」を前に考えた。(オルタナ編集部・長濱慎)

■執行文書の「黒塗り開示」はゴール16の「透明性」に反する
SDGsが死刑制度に触れていない理由について、蟹江憲史・慶應義塾大学教授(『SDGs(持続可能な開発目標)』著者)にきいた。
「SDGsは国連でのコンセンサスによってできあがったため、国によって制度が異なり、意見が対立する課題を直接取り上げることは避けています」
法務省はこのことを理由に、SDGsと死刑制度は両立するという考えだ。
「SDGsのターゲットにも指標にも、死刑廃止はありません。日本の死刑制度は法律に定められた手続きと、慎重な審理を経て運用されています。国際的な批判があることは承知していますが、存置か廃止かは各国ごとに判断すべきだと認識しています」(栗木傑・刑事局参事官)
一方、死刑廃止を求める運動体「フォーラム90」は、死刑制度はSDGsに明確に反すると強調する。
「SDGsは世界人権宣言や国際人権規約の精神の下に生まれており、生きる権利を否定する死刑制度は許されません。また、死刑制度にお墨付きを与えてしまう世論(日本では約80%が死刑賛成)は『誰一人取り残さない』という理念とは真逆です。さらに永山則夫さんのケースのように、死刑の問題は貧困や差別と結びついており、SDGsの目標1や3にも反するものです」(フォーラム90スタッフ・岡本真菜さん)
さらに「フォーラム90」は、日本の死刑制度はSDGs目標16の「説明責任があり透明性の高い仕組み」とも相いれないと指摘する。透明性については、死刑廃止を求める弁護士や国会議員の間でも問題視する声が多い。
実際に日本政府は、死刑に関する情報をほとんど公開していない。たとえば、日本弁護士連合会も冤罪を強く疑う「飯塚事件」(2008年執行)では、複数のメディアが法務省に死刑執行文書の開示を求めた。しかし開示された大部分が黒塗りで、真相は藪の中だ。
死刑制度を巡る議論は、賛成派・反対派の主張が並行線をたどっている。しかしそもそも、現状がわからなければ建設的な議論はできない。まずは政府が速やかに情報を開示し、説明責任を果たすべきだろう。