
男性主導だった映画業界の変革が、日本でも進んでいる。2021年秋に開催された第34回東京国際映画祭は、男女平等を目的の一つに掲げた。コンペティション部門の最高賞「東京グランプリ」を受賞した「ヴェラは海の夢を見る」のほか、「ムリナ」「オマージュ」など女性監督による女性の人生をテーマとする良作を数多く紹介した。(オルタナ編集委員=瀬戸内千代)
女性監督の作品が充実した東京国際映画祭
東京国際映画祭は2021年3月、映画界の男女比の変革を目指す国際的な活動「Collectif 50/50」に世界で157番目、アジアでは最初に参加した。東京都知事賞も受賞したカルトリナ・クラスニチ監督の「ヴェラは海の夢を見る」は、同映画祭初のコソボからの出品作だった。夫を亡くした60代の女性が差別の中でも自立していく物語で、手話が重要な役割を果たす。
クロアチアのアントネータ・アラマット・クシヤノヴィッチ監督の「ムリナ」は、2021年カンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)受賞作。島暮らしの娘をムリナ(クロアチア語でウツボ)になぞらえ、支配的な家庭からの脱出を描く。上記2作品は、価値観の異なる母娘の対立もテーマとなっている。
「パラサイト 半地下の家族」の家政婦役イ・ジョンウンが主演したシン・スウォン監督の「オマージュ」は、1960年代の韓国映画界に足跡を残した女性監督たちを追想する物語である。
女優は若手が多く、カルトリナ監督とシン監督は、それぞれ60代と40代後半の主演女優を探すこと自体に苦労したという。なお、上記3作品の日本での一般上映や配信は、まだ決まっていない。
日本映画界は男性優位が続いている
非営利団体のJapanese Film Project(JFP)は日本映画界のジェンダーギャップを埋めるために2021年7月に発足した。JFPの「日本映画業界の制作現場におけるジェンダー調査」によると、2010~2020年に劇場公開された796本(興行収入10億円以上の実写邦画)のうち、女性監督作品はのべ25本、わずか3.1%だった。
同映画祭と提携してJFPが主催したシンポジウムでは、司会の元TBSアナウンサー、小島慶子さんが、登壇した女性映画人たちの意見をまとめて、「日本の女性は男性の5倍の無償労働を担っている。マッチョな現場からは女性が最初にはじかれ、男女比の偏りは作品にも影響を与えている」と語った。第35回東京国際映画祭は、2022年10月24日から11月2日に開催予定だ。