EV(電気自動車)への4兆円投資を明らかにしたトヨタ自動車の唐突さにはいささか驚かされました。同社はEVには慎重との見方もあっただけに、いまさらながら欧州を中心とする環境規制の流れの強さを感じます。
冷戦終焉で米ソという超大国同士の核戦争の危機が去って30年余り。非軍事の経済社会問題に焦点が当たる中で、急速に欧州が存在感を増しています。象徴的だったのは今年10-11月に英グラスゴーで開催された第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)です。各国の利害が交錯する中で、英国が「(産業革命以降の)気温上昇を1.5度以内に抑える努力」を合意文書に盛り込ませたことは、現時点での最善の内容で、そのリーダーシップは際立っていたと言えます。

地球サミットで地球規模課題が主役に
冷戦終焉後、世界の関心は地球規模課題に集中しているといっても過言ではありません。その流れを作ったのは言うまでもなく1992年、ブラジルのリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)で、歴史的な気候変動枠組み条約と生物多様性条約が合意されました。
その後立て続けに、人権(ウィーン)、開発(カイロ)、女性(北京)と世界規模の会議が開かれ、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)につながるのです。
直前の1989年、冷戦が終わったまさにその年に起きたのが石油メジャー、エクソンモービル社のタンカー、バルディーズ号がアラスカ沖で座礁し、起こした大量の油流出事故でした。CSRの原点ともいうべき出来事で、企業に環境倫理の順守を求めたバルディーズ原則(現セリーズ原則)をNGOセリーズが制定しました。
このセリーズが国連に呼び掛けて作ったのがGRI(グローバル・リポーティング・イニシティブ)で、これは「CSR運動のドン」英国のジョン・エルキントンが提唱したトリプル・ボトム・ライン(環境・社会・経済)に関係の深いGRIガイドラインを発行している組織です。本社はオランダのアムステルダムにあります。このあたりから世界の秩序をリードしようという欧州の野心が垣間見えます。
その後、CSRに世界的な注目が集まるのはご承知の通りですが、1999年、当時の国連事務総長、コフィー・アナンが国連グローバル・コンパクト(環境・労働・人権・腐敗防止)を提唱したのはスイスのダボス会議だし、2006年に設置された人権理事会があるのもジュネーブにある国連欧州本部です。欧州が歴史的、伝統的に培ってきた価値観が国連と手を携えながらCSRの衣をまとって世界に広がりつつある構図が見て取れます。