ヤングケアラーの若者が集まり昨年末、支援団体を立ち上げた。運営するオンラインコミュニティには、すでに200人以上のヤングケアラーが参加しており、その規模は日本最大を誇る。ヤングケアラーに関しては国としても実態調査を始めたばかりで、課題や対応方法を模索中だ。オンラインコミュニティでは当事者に悩みを一人で抱え込ませないように「返信不要の独り言」というスレッドがある。文字通り、これらの投稿には「返信不要」だが、顔文字のアイコンで反応し、想いをすくっている。(オルタナS編集長=池田 真隆)

「いつも誰かのために生活してきました。自分を大切にしながら生きることはできないのでしょうか」――。これはあるヤングケアラー(学業や仕事のかたわら、障がいや病気のある家族のケアをする若者)の「独り言」だ。正確には、「返信不要の独り言」である。
一般社団法人ヤングケアラー協会は「ヤンクルコミュニティ」という参加費無料のオンラインコミュニティを運営する。2020年4月に立ち上げ、現在219人が参加している。その内の約7割が17~25歳のヤングケアラーだ。オンラインチャットを使って、自己紹介や悩みごと、支援制度などを共有し合う。
スレッドには、「返信不要の独り言」もある。思ったことを一人で抱え込まずに吐き出させることが狙いだ。このスレッドの投稿には、誰も返信しない。顔文字のアイコンで反応することがルールだ。「返信不要」としているが、アイコンで反応することで、投稿者がこれまで打ち明けられなかった想いをすくっているのだ。
■中学生の17人に1人、6割が「相談したことがない」
昨年、厚労省と文科省が行ったヤングケアラーに関する実態調査では、中学生は17人に1人、高校生は24人に1人がヤングケアラーだと分かった。ケアに費やす時間は平均で中学生は1日4時間、高校生は3.8時間だった。特に課題視されたのが彼らの「孤独感」だ。「誰にも相談したことがない」と回答した割合は中高生全体で6割を超えた。
ヤングケアラー協会を立ち上げた宮崎成悟さん(32)はヤングケアラーが抱える「孤独感」についてこう話す。
「ケアに追われてしまい、進学や就職、恋愛などを諦めてしまう人も多い。悩みを一人で抱え込んでしまうと、家族のために動いていたものが、『家族のせい』に変わってしまうこともある」
ヤングケアラーは個別性が高いので、画一的な支援方法はない。ヤングケアラーでも、生活に支障がでていない人もいれば、学校や会社に行けないほどケアに追われている人もいる。宮崎さんは、「ヤングケアラーと一括りにして見るのではなく、一人ひとりと向き合い、支援方法を見出していくしかない」と語る。
■「ケア中心の生活」が活動の原動力

宮崎さん自身も、元ヤングケアラーだ。15歳から難病の母親のケアを担ってきた。大学卒業後、大手医療機器メーカーに就職するが、3年で介護離職した。その後、ヤングケアラーの社会進出を支援する事業を立ち上げて起業した。だが、事業の収益性が見込めず、株式会社をたたんだ。一般社団法人としてヤングケアラーの支援事業を行うため再出発を図った。

頼もしい仲間もできた。宮崎さんと同じく代表理事を務めるヤングケアラーの吉井理比古さん(30)は大学院在学中に母親が事故に遭った。いまも介護をしながら大手自動車メーカーで働く。事故に遭った当初、ほとんど大学院に行くことができなかった経験が原動力だという。

高岡里衣さんも同じ思いを持つ。9歳の頃に母親が指定難病の膠原病を発症し、約24年間ケアをしてきた。大学卒業後一度は就職するものの、わずか2年で介護離職した。その後、ケア中心の生活を10年ほど送った。ケアと自己実現の両立の難しさに苦しんだ経験から、宮崎さんたちの活動に参加することを決めた。
ヤングケアラー協会では4つの事業を行う。一つはヤングケアラーのオンラインコミュニティの運営だ。二つ目は、当事者の就職支援。介護経験や現在の状況などを聞き出し、今後のキャリアプランを築く。
三つ目は、自分史制作だ。特に子どもの頃から20年以上ケアしてきた人は、ケアが終わると虚無状態になることがあるという。そこで、自分の経験をストーリーにして客観視することで前を向いてもらう。自分史をつくるのは、代表理事の吉井さんだ。実は、吉井さんは小説家として賞を受賞した経歴を持っている。
最後は、自治体や企業向けの啓発活動だ。研修や講演、コンテンツ制作などを行う。すでに山梨県と吉本興業などが制作した啓発動画の監修を行った。
■埼玉県白岡市の15歳少年暴行死事件、少年はヤングケアラーだった
ヤングケアラーに関してはまだ実態の把握が十分にできていない。だが、課題が深刻化していることは明らかだ。
今年に入って埼玉県白岡市で起きた、15歳の加藤颯太くんが自宅で意識不明の状態で見つかり死亡した事件がある。颯太くんは8人きょうだいの長男。母親と母親の交際相手と暮らしていた。
きょうだいの面倒は主に颯太くんが見ていたことが分かった。小学校5年生からは学校にも行っていなかった。颯太くんもヤングケアラーだった。
厚労省は令和4年度に364億円の予算を組み、自治体向けに啓発を強化し、対策を本格化させる考えだ。
宮崎さんはヤングケアラーを早期に発見する仕組みと「出口」を作りたいと強調する。彼が言う出口とは、介護と生活のバランスが取れた状態を指す。
宮崎さんは、「ヤングケアラーの問題に関心のある企業や団体と連携しながら取り組みを進めていきたい」として、連携先の団体を募集している。