雑誌オルタナ68号(3月31日発売)では「戦争と平和と資本主義」をテーマに9人の有識者に寄稿頂きました。68号に掲載した記事をオンラインでも掲載します。
「さわかみ投信」の創業者・澤上篤人氏は地政学リスクを高め、所得格差を拡大させた背景には「資本家」不在で暴走する強欲資本主義があると言う。事業の存在意義を見直し、世の中に「問え」と言い切る。

さわかみホールディングス社長。1947年、愛知県名古屋市生まれ。1973年、ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。1980年から1996年までピクテジャパン(現・ピクテ投信)代表取締役。1999年に日本初の独立系投資信託会社さわかみ投信設立。
ロシア軍によるウクライナ侵攻はこれからどのような展開となっていくのか、まさに予断を許さない。
ひとつ、はっきりしていることがある。それは今後の世界情勢において、地政学的リスクが拡散しつつ高まっていくであろうということだ。
それは、世界の警察官を自認してきた米国の存在感が薄まってきていることの裏返しだ。いざとなれば圧倒的な力を誇る米軍が出動する。それだけでも、世界中に無言の「重し」となってきた。
ところが、オバマ大統領の頃から米国はもはや世界の警察官ではないと広言しだした。その後も米国人の血を各地の紛争で流すわけにはいかないと、米政府は繰り返している。
米国という重しがなくなるということは、世界各地での積年の民族的・部族的・宗教的などの懸案が表面化しやすくなる。そういった地政学的リスクの背景には、貧困という世界中で共通の問題が横たわっている。
所得格差の拡大と多くの人々の低所得化は紛争を招く土台となる。なにしろ、どこの国の人々もそこそこに食っていければ、過激な方向へ走る度合いも減るのだから。貧困が子どもたちを教育から戦士へと走らせてしまうのだ。
その点、昨今の強欲資本主義の傾向は、世界経済の健全なる発展と人々の幸せにはつながっていない。つまり、一部の人々を富ますだけで、大多数の人々を低所得化や貧困化へ追いやっているのだ。
いってみれば、資本主義の劣化である。資本主義本来の良さである、健全なるアニマルスピリッツによる経済全般の拡大発展と国民全般の幸せが、さっぱりみられない。
そのあたりを、日本を中心にしてみていこう。日本経済では活力というものが、どんどん失われていっている。どこに問題があるのか。どうすれば資本主義らしい経済となっていくのだろうか。
お役所資本主義、日本経済の弱み