記事のポイント
- 環境省は2024年3月に一次データを使ったスコープ3排出量の算定方針を示す
- これまでは二次データで算定しており、削減努力が反映できていなかった
- 温室効果ガス排出量の算定はどう変わるのか、環境省の担当官が話した
オルタナは9月16日、「第26回SBLセミナー」を開いた。テーマは「GHG算定はどう変わるのか」。ゲストに環境省の担当官を迎え、環境省がスコープ3排出量の算定方法を二次データから一次データを使うことを推奨することに決めた経緯などを聞いた。(オルタナ編集部)

環境省は2024年3月をめどに、企業や組織の温室効果ガス(GHG)の排出量のうち「スコープ3」(間接排出)について、「一次データ」(実測値)を使った算定方法の方針を示す。
これまで国内では売上高や取引高と業種平均(産業連関表ベース)の排出係数を基にした二次データ(推計値)によってスコープ3を算定していた。GHG算定はどう変わるのか。
ゲストの環境省地球環境局脱炭素ビジネス推進室の金澤晃汰係長の講義内容をまとめた。
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まず「サプライチェーン排出量」について説明します。サプライチェーン排出量とは、事業者自らの排出だけでなく、事業活動に関係するあらゆる排出を合計した排出量を指します。つまり、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のことです。
温室効果ガス排出量の算定と報告の国際基準「GHGプロトコル」ではサプライチェーンを「スコープ」という単位で分けています。スコープ1は自社の活動に伴う 「直接排出」です。スコープ2は、「エネルギー起源の間接排出」。自社が購入した電気・熱の使用に伴う排出量を指します。
スコープ3は、「その他の間接排出量」と定義しました。スコープ2以外の間接的な排出量という意味です。GHGプロトコルではこのスコープ3を15のカテゴリに分類しました。

スコープ3の各カテゴリの排出量の計算方法は2種類あります。一つは関係する取引先から排出量の提供を受ける方法です。これは「一次データ」を利用した計算方法です。
二つ目が「排出量=活動量×排出原単位」という算定式を用いる方法です。この場合、活動量を自社で収集します。

排出原単位は、外部データベースや取引先から得ます。取引先から情報を得た場合は一次データになりますが、多くの企業は産業連関表の排出原単位を参考にしているので、二次データで計算しているのが実情です。
例えば、電気スタンドメーカーを例にスコープ3の算定方法を説明します。カテゴリ1「購入した製品・サービス」は「原材料・部品、容器・包装等が製造されるまでの活動に伴う排出」です。
カテゴリ1の計算方法は、当該年度の電球とスタンドの購入金額(購入量)に金額当たり(購入量当たり)の排出原単位を掛けます。
次にカテゴリ4「輸送、配送(上流)」を説明します。カテゴリ4は輸送・配送になりますが、2パターン考える必要があります。ここではAパターンとBパターンとします。
Aパターンは報告書対象年度に購入した製品・サービスのサプライヤーから自社への物流(輸送、荷役、保管)に伴う排出です。そして、Bパターンは報告対象年度に購入したもので、Aパターンで購入したもの以外の物流サービス(輸送、荷役、保管)に伴う排出(自社が費用負担している物流に伴う排出)を指します。
この場合は、電球やスタンド素材の総購入量に輸送距離(例:500kmと仮定)を掛けます。または、トンキロ法排出原単位を掛けることで計算できます。
続いて、カテゴリ11「販売した製品の使用」について説明します。カテゴリ11は使用者(消費者・事業者)による製品の使用に伴う排出を指します。
これは、電気スタンド1台の消費電力に年間稼働時間シナリオか耐用年数または電力の排出原単位、販売台数などを掛けます。
気を付けることとしては、当該年度に販売した製品の生涯排出量を当該年度のカテゴリ11で計上しなくてはいけません。
最後にカテゴリ12「販売した製品の廃棄」を説明します。カテゴリ12は「使用者(消費者・事業者)による製品の廃棄時の処理に伴う排出」です。計算方法は、電気スタンドの総販売量に埋立処理の原単位を掛けます。販売した製品の廃棄時の排出量は、販売年度のカテゴリ12で算定することが決まりです。
ここまでお話したよう二次データは業界平均値などの数値をもとにしているので、スコープ3排出量を算定すると、削減努力が正確に反映されないことが分かります。
そこで、排出実態に即した一次データを使えばスコープ3の削減努力を反映できます。環境省ではスコープ3の算定について、一次データを使うことを推奨していきますが、一次も二次もそれぞれメリットとデメリットがあると考えています。
例えば、スコープ3のカテゴリで重要ではない部分で、コストを掛けて一次データを使うことにどれだけの意味があるのか。まずは二次データで排出量が多いカテゴリを見つけ、そこから一次データで削減していくことを推奨します。
そもそも、一次データと二次データの定義は何か。GHGプロトコルではこう説明しています。
一次データを「プライマリーデータ」とし、取引先から供給されたデータという意味の「Data from specific activities」と説明しています。一方、二次データを「セカンダリーデータ」とし、「Data that is not from specific activities」としています。業界平均値または代替地という意味です。
GHGプロトコルでは一次と二次のメリットとデメリットも説明しています。一次データを使うことのメリットは「削減努力が反映できること」で、デメリットは「コストやデータのクオリティ」としました。
二次データのメリットは「一次データを取ることができない場合に使えること」で、デメリットは「削減努力が反映されないこと」としています。
GHGプロトコルでは一次データを5段階でレベルを付けています。最も質の高いレベルは「プロダクトレベル」です。その製品の原料調達から廃棄するまでの過程の排出量を示すデータです。
その次が「製造ラインの排出量」「施設・工場単位の排出量」「一業種当たりの排出量」そして最後が「企業全体の排出量」としています。
最後に環境省の今後の方向性を述べます。今年5月の「炭素中立小委員会」の中間整理において、企業の削減努力を排出量に反映する観点から、一次データを活用したスコープ3排出量の算定方法を標準化していく方向性を示しました。
この背景としては、脱炭素経営が求められるなか、削減努力を正確に反映するための算定方法が十分に整備されていませんでした。そこで、削減努力を反映できるスコープ3の算定方法の標準化に取り組みます。
令和5年度の概算要求に「サプライチェーン全体での企業の脱炭素経営普及・高度化事業」として財務省に提出しました。総額15億円の事業の中の一つに「サプライチェーン排出量の支援」を入れました。
まだ具体的には、どのような形で計算方法を示すのかは未定です。すでにあるガイドラインを改良するのか、もしくはまったく違う資料を作るのかも未定です。進め方も検討会を立ち上げるのかも含めて未定なのです。
ですが、2024年3月までに何らかの形でガイドラインを出すことになっています。
国際的には一次データを使う動きが広がっています。WBCSD主導で開発したガイダンス「Pathfinder Framework」では、製品の排出量を明記する際には、一次データを使うことを強調しています。
CDPは気候変動質問書において、スコープ3排出量の回答と併せて、当該排出量に占める「サプライヤーまたはバリューチェーンパートナーから得たデータを用いて計算された排出量の割合」の回答を求めています。
■企業の削減努力が報われる仕組みを
セミナーの中盤では、金澤係長とオルタナ編集長森摂との対談を行った。
森:そもそも「一次データを目指しましょう」という流れが、どこから生まれたのか教えていただけますか。
金澤:大きな流れは、2つあります。1つは、企業の削減努力に応えたいということがありました。
企業のみなさんは「二次データ」を使ってGHG排出量を算定し、次のステップとしてGHG排出量の削減に取り組んでいます。サプライヤーとエンゲージメントしたり、効率化したり、さまざまな努力をされています。
しかし、実際にGHG排出量を算定しようとすると、平均値で計算することになるので、実際よりも高い排出量になってしまうのです。
「削減努力が数字になって表れない」という課題は、いろいろな業種の方から聞いていました。それに応えたいというのが、一番大きな理由です。
もう一つ、国として一次データを求めることで、この流れが広まることを期待しています。