「アンモニア発電」「ゼロエミ」の言葉に惑わされるな

記事のポイント


  1. 脱炭素電源やゼロ・エミッション火力などは気候変動にまつわる新しい用語だ
  2. 言葉のニュアンスからグリーンなイメージを持つが、「実態は違う」と専門家
  3. 「気候変動に関連する用語は違和感だらけ。8割疑ってもよい」と指摘

政府は2050年カーボンニュートラルに向けて、「脱炭素電源」の強化を図る。一見すると自然エネルギーの推進を意味しているかのように読めるが、実は違う。専門家は気候変動にまつわる用語は「違和感だらけ」とし、「8割疑ってもよい」と指摘した。違和感だらけの「気候変動用語」を紹介する。(オルタナS編集長=池田 真隆)

日本の電源構成で7割以上を占める火力発電

火力発電の推進を狙った「脱炭素電源」

経産省では電力の安定供給を確保するため「脱炭素電源」を重点投資の対象とした。第6次エネルギー基本計画では2030年のエネルギー需給の見通しについて、この脱炭素電源の比率を約6割と見込む。

脱炭素電源が長期的に固定収入を得られるための制度設計を、「電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」で昨年12月から話し合っている。今後はパブリックコメントを経て、2023年度に制度化する流れだ。

問題はこの脱炭素電源の対象範囲だ。経産省は脱炭素電源を「発電・供給時にCO2を排出しない電源」と定義するが、実は火力発電の推進の意味合いが強い。

例えば、火力発電の燃料に水素とアンモニアを使うことも「脱炭素電源」の定義に入っている。水素とアンモニアは生成時にCO2が発生する。しかし、「発電・供給時」にCO2は排出していないという理由から対象範囲に入れたという。

水素・アンモニアは海外で化石燃料からつくる「グレー」なものと、化石燃料からつくる際に出るCO2を回収する「ブルー」なものを想定する。グレーは脱炭素とは言えず、ブルーに関しても削減効果は限られている。

脱炭素電源を強化する制度設計の一環で、「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」の改正が進む。

この高度化法の改正案では、非化石エネルギーとして、水素とアンモニアを位置付けた。

国際NGO「クライメート・インテグレート」の平田仁子・代表理事は「原発と火力を脱炭素の元で積極的に推進しようとしている。エネルギー危機に便乗した利権獲得に過ぎない」と指摘する。「CO2は減らないし、座礁資産になるだけだ」と強調した。

クライメート・インテグレート代表理事の平田さん

ゼロ・エミッション火力、「できもしないのになぜPRするのか」

「ゼロ・エミッション火力」も気を付けて捉えたい用語だ。経産省は電力供給の方針として「S+3E(安全性+エネルギーの安定供給、経済効率性、環境への適合)」を掲げる。この方針で掲げた「安定供給」に一定の役割を果たす電源として火力発電を位置付ける。

日本の電源構成のうち7割以上を火力発電が占めている。ただし、CO2を排出するため、2050年のカーボンニュートラルを実現するためには抑制が必要だ。そこで開発が進むのが、ゼロ・エミッション火力だ。

ゼロ・エミッション火力には4つの技術がある。一つ目の技術は発電時にCO2を出さないという理由から、水素を石炭と混焼することや専焼する技術だ。アンモニアでも水素と同様に、混焼や専焼の可能性を追求する。

水素もアンモニアも、生成時にCO2を排出する。そこで、そのCO2を削減する方法としてCCSを活用する。CCSはCO2を分離、回収して貯留する技術だ。さらに、火力発電所で分離・回収したCO2を、工業製品やプラスチックなどの原料として利用するカーボンリサイクルやCCUSという技術も開発している。

これらの新技術の組み合わせについて、平田氏は「本当に実現できるのか、何の裏付けもない」と言い切る。「2050年までに気候変動を何とかしようという状況において、十分な役割を果たせない可能性が高い。コストも膨大で、技術的にも課題が山積している」。

例えば、CCSについては実証が行われているが、その回収量は30万トン程度だ。日本の石炭火力発電が排出するCO2の総排出量は年間約2億5千万トンに及ぶので、その量はわずかである。

平田氏は、日本の海底に埋める技術も危険性があり、海外を探しても大規模での実証は行われていないと話す。

◾️「8割は疑って話を聞いて」

SDGsやESGが盛り上がるほど、グリーンウォッシュも増える。平田氏は、言葉に踊らされて、本質を見誤り、雰囲気に流されることが危険だと語る。

重要なことは、受け手側がリテラシーを高めることだと言う。そうならないと問題点を十分に議論することなく、一握りの人だけがいい思いをすることになってしまうと訴えた。

リテラシーを高める方法として、平田氏は若者向けの講演でよくこう話す。

「8割疑って話を聞いて」

「何が正しいのか大人たちも分かっていない。その状態で話していることが多い。今は時代の転換点でもあるので、前例に捉われずに8割疑って掛かってほしい」

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

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キーワード: #脱炭素

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