記事のポイント
- 今回のカタール大会から、FIFAはオフサイドの半自動判定システムが導入された
- サステナブル経営とサッカーには相似点がある
- 社会環境の変化に向かい合う姿勢がリスクを機会に変えることにつながる
サッカー「ワールドカップ2022」グループリーグで日本は1勝1敗となり、その帰すうは12月2日のスペイン戦に委ねられました。ところで今回のカタール大会から、FIFAはオフサイドの半自動判定システムを導入しましたが、そもそも、なぜ「オフサイドは反則」なのでしょうか。(オルタナ編集長・森 摂)

「オフサイドはなぜ反則か」(中村敏雄、1985年、三省堂選書)にその歴史的背景が詳しく出ています。同書によると、「フットボール」という言葉が初めて歴史の記録に出てきたのは1314年のことでした。
その起源は、民衆の宗教行事として、イースター前の懺悔火曜日や聖杯水曜日、または祝い事がある日などに行っていた「マス・フットボール」でした。
町と町、村と村が一つのボールを大勢で蹴り合い、相手のゴールを目指して、街なかでボールを蹴り合ったのが発祥です。死者やけが人も大勢出て、当時のエドワード三世はマス・フットボール禁止令を出したほどでした。
その中で、村中のお祭り騒ぎを少しでも長く楽しむために、ゴールの近くに攻撃陣を置いて、ゴールに蹴り込むすることを禁じたのです。この考え方は、サッカーから派生したラグビーにも受け継がれ、オフサイドやスローフォワード(ボールを前に投げること)を禁止しました。
村の祭りを長く楽しめるようにするため。これがオフサイドの起源です。ある意味では、「サステナブル」(持続可能)なルールと言えるかもしれません。
さて、私は近年、サステナブル経営は、野球よりもサッカーに似ていると感じています。
そのポイントは(1)グローバル感覚(2)攻守同時(3)スピード感 ーーの3つです。
私が子どものころはスポーツと言えば野球で、その最高峰は米メジャーリーグでした。日本企業も、高度成長期以来、ずっと米国の動きを追い続けました。経済学や経営学も米国の影響が強いようです。
ところが、サッカーの競技人口は世界で2億6000万人と、野球(3500万人)の7倍ほどあります。そして、サステナビリティの動きは欧州発祥のルールが多いのです。
一方、米国は、トランプ前大統領がパリ協定から離脱するなど、サステナ先進国とは言えません。米国だけを見ていては、世界のサステナ潮流についていけないのです。
2つ目の「攻守同時」は言うまでもありません。野球は表と裏、攻撃と守備が明確に分かれていますが、サッカーは攻守同時です。攻めているかと思えば、カウンター攻撃を食らったりします。
サステナ経営やESGの領域で、脱炭素や人権問題などで企業がピンチに追い込まれている状況にこそ、チャンスがあります。その逆も然りです。
3つ目は「スピード感」です。野球の試合ではボールが止まっている時間があるのに対して、サッカーのボールは止まることはありません。そしてボールの行き先を読むこと、その流れを先読みすることがとても重要です。
サステナ経営も同じです。社会の流れは刻々と変わります。LGBTQという言葉は、数年前までは日本になじみがない言葉でしたが、いま、その言葉を知らない人はむしろ少ないでしょう。
LGBTQの問題も、それ自体が企業にとって機会にもリスクにもなります。SOGIハラ問題が職場で起きること自体が企業リスクです。その一方で、先進的な企業は、同性カップルに対しても、家族手当を出すようになりました。
今後、優秀な人材を集めるためには、企業が正しいLGBTQ施策を取らなければなりません。そして、LGBTQを始めとしたジェンダーについての価値観は、いま急速に変化しています。
急速な価値観の変化は、脱炭素や、サプライチェーンの人権問題も同様です。脱炭素施策を取らないことは、投資家から選ばれないリスクと同義になりました。少し前なら見過ごされていたサプライチェーンの人権問題も同様です。
今後も、企業を取り巻く社会環境や価値観の変化は、急速に進みます。その潮目を読めないでいると、企業は思わぬリスクに直面します。
サッカーでは、ディフェンダーが攻撃に参加し、得点に結びつくことも少なくありません。サステナ経営では、NGO/NPOやメディアから批判を受けても、その声を無視することなく、向き合う姿勢が大切です。これが、リスクを機会に変えることにつながるのです。