記事のポイント
- PMI日本支部が「PM アワード2022」を発表
- 受賞した一つが「笑顔を貧困をなくす寄付に変える」プロジェクト
- AIなどの最新テクノロジーを駆使し、社会課題の解決につなげる点が評価
PMI(プロジェクトマネジメント協会)日本支部はこのほど、「PM Award(アワード)2022」を発表した。同賞は、社会課題の解決やイノベーションの創出を目指す企業や団体を表彰するもので、2021年に始まった。2回目となる今回は6つの取り組みを選んだ。その中から「パーソル総研well-being賞」を受賞した「笑顔を寄付に変えるプロジェクト」を紹介する。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■デバイスが検知した笑顔が貧困支援に
プロジェクトの正式名称は、「AIによる街の幸福度向上と可視化プロジェクト」だ。街中や建物内に設置された監視カメラや防犯カメラ、スマートフォンなどのデバイスに笑顔認証機能を搭載し、AIが人々の笑顔を検知する度に「1笑顔=1円」の寄付を行う。
認証機能が検知するのは笑顔の数、発生時刻、発生場所のみ。個人の属性に関するデータは一切拾わないことで、プライバシーを守る仕組みを付与している。
プロジェクトを主催する一般社団法人「One Smile Foundation(ワンスマイル・ファンデーション)」の辻早紀(はやき)代表理事は、思い立ったきっかけをこう語る。
「子どもの頃、海外の貧困のニュースに触れて衝撃を受けましたが、自分が40代になった現在も問題は解決していません。国連などが努力して少しずつ状況が良くなっているのは確かですが、新型コロナやウクライナ戦争など起きると、たちまち10年ほど前の状況に戻ってしまうのが現状です。もっと違ったアプローチで社会にインパクトをもたらし、貧困をなくすスピードを高められないかと考えたのです」
辻さんは音楽家でもあり、2018年に始まった「グローバル・スペース・オーケストラ」の指揮者も務めている。これは1万5000基以上の人工衛星と5Gの地上回線を用いて、地球を一つのコンサートホールに見立てた演奏会を行うプロジェクトだ。
こうした最先端の宇宙技術に触れた経験などから、デジタルテクノロジーを利用して地球上の格差を是正できないかという着想に至ったという。

■お金がなくても「寄付する側」になれる
辻さんは、こう続ける。
「これまで寄付というと、富を持つ人しかできませんでした。そこに『笑顔』を介在させれば、誰もが寄付をする側になれます。経済状況などで寄付できない方は自己肯定感も下がりがちですが、そんなことはありません。『人は誰でも、生きているだけで価値がある』というメッセージを、プロジェクトを通して発信したいのです」

ユニークな仕組みの一つが、寄付を行うのが笑顔を提供した本人ではないことだ。寄付の主体はワンスマイル・ファンデーションで、同ファンデーションが世界中から集めた資金から拠出し「1笑顔=1円」に換算して世界各地の貧困撲滅プロジェクトに届ける。
ブロックチェーン技術によりトレーサビリティを担保し、寄付金がどの国や地域のどのプロジェクトに活かされたかも追跡できる。「自分が出したお金が何に使われたのかわからないという」ブラックボックスを可視化できることも、寄付のあり方を大きく変えられると辻さんは意気込みを見せる。

プロジェクトの進捗状況だが、静岡・浜松市、広島県、兵庫・加古川市で実証実験が終わり、実装に向けた準備を進めている。
浜松市の実証実験では、複数の協力企業の食堂や休憩室に笑顔検知アプリを搭載したスマホやタブレットを設置し、30万以上の笑顔を検知した。こうして生み出した30万円以上を、市内10ヵ所以上の子ども食堂に寄付する。
街中の監視カメラなどで不特定多数の笑顔を検知するケースについても、実証実験で9割以上の人から賛同が得られたという。
「プロジェクトマネジメントでまず大切なのは、目的を明確にしてステークホルダーに伝えることです。『笑顔を寄付に』という誰も否定できないであろうコンセプトを、ストレートかつシンプルに伝えたことが、自治体や企業、地域の皆さまに快くご協力いただけた秘訣ではないかと感じています」
今後は国内の他の自治体に実証実験の場を広げるとともに、海外でも実験を行う計画だ。アジアやアフリカでは日本以上にデジタル通貨の導入が進んでいる国や地域もあり、本プロジェクトとの親和性も期待できるという。
「スコープ(成果物とやるべきタスク)を設定し、スケジュールや予算に沿ってプロジェクトを進めることはもちろん大切です。しかし今回はコロナ禍の影響で、実証実験の場所など当初の計画を大幅に見直さざるを得ませんでした。こうした想定外の事態に柔軟に対応できるチームづくりも、プロジェクトマネジメントには重要です」

■プロジェクトマネジメントのスキルを社会課題の解決に
PMアワードを審査した一人である、ソヒュン・カン PMIアジア太平洋地域リージョナルマネージャーは、辻さんのプロジェクトをこう評価する。
「審査で重視するポイントの一つに、社会に前向きなインパクトを与える可能性があります。辻さんのプロジェクトは『笑顔を寄付に』という、パワフルで前向きなメッセージを発しているのが印象的でした。AIなどのイノベーションを活用し、自治体などのステークホルダーと信頼関係を築いてアイデアを形にした点も評価しています」

「PMアワード2022」には、「笑顔を寄付に変えるプロジェクト」を含む6件が選ばれた。各受賞プロジェクトの詳細は、PMI日本支部の特設ページで見ることができる。
https://www.pmij-award.net/pmaward2022
PMIは米・ペンシルバニア州に本部を置く非営利組織で、組織や企業の垣根を超えたプロジェクト型連携の普及・啓発を後押しする。世界に300以上の支部があり、日本では1998年に設立、2009年に「一般社団法人PMI日本支部」となった。
PMIが重視するプロジェクトマネジメント(プロジェクトを成功に導くための総合的な管理手法)の重要性について、カンさんはこう語った。
「色々な所で色々な人が、素晴らしいアイデアを持っています。しかし、それを形にしなければアイデアのままで終わってしまいます。昨今は気候危機をはじめとする社会課題の解決が強く求められており、そのためには不確実な要素やリスクへのチャレンジも必要です。こうした課題を乗り越えるにあたって、プロジェクトマネジメントのスキルは大きな力になるでしょう」
PMI (Project Management Institute)
https://www.pmi.org/
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