オーガニック先進国・デンマークで見た「牛が踊る」牧場

記事のポイント


  1. デンマークは、世界で最もオーガニック食品が流通している先進国だ
  2. 「2030年までに有機農業比率および市場シェア30%」を目指す
  3. 背景には、環境配慮を含めた「食の安全」と、アニマルウェルフェアの観点がある

デンマークは、世界で最もオーガニック食品が流通し、有機農業が拡大しているオーガニック先進国だ。日本の目標より20年以上早い「2030年までに有機農業比率および市場シェア30%」を目指す。有機農業推進の背景には、環境配慮を含めた「食の安全」と、アニマルウェルフェア(動物福祉)の観点があった。(オルタナ副編集長=吉田広子)

■「牛が踊る」牧場、飼料も有機で

スヴァンホルム農場で飼育されているジャージー牛

長い冬があけて、待ちに待った春を迎えると、スヴァンホルム農場(デンマーク・スキビー)では牛の放牧が始まる。牛舎を出た牛たちは飛び跳ねて喜び、「その瞬間はまるでダンスをしているようだ」(ナチュアミルク社のライフ・フリ・ヨーゲンセンCEO)。

「オーガニックデー」と呼ばれる放牧の初日、スヴァンホルム農場には、デンマーク各地から5000人が集まった。同農場の牛乳から乳製品を製造するヨーゲンセンさんは、「普段食べている乳製品がどんな牛からきているのか、消費者の関心は高い」と話す。

スヴァンホルム農場は、430ヘクタールの土地に、自然放牧の牧場や有機農場、カフェや住宅などを併せ持つエコヴィレッジだ。オーガニック生産のパイオニアとして知られ、国内外から住み込みのボランティアも集まる。

牧場では、120頭のジャージー牛を飼育し、国が定めた期間(4月15日から11月1日)は自然放牧で育てる。冬季は屋内施設で飼育するものの、十分なスペースと移動の自由を確保する。エサは、牧草と有機のオーツ麦やルパン豆などだ。柵に近付くと、牛たちは人懐っこく近寄ってくる。

1978年に創設されたスヴァンホルム農場は、1990年に完全オーガニック化した。生産部長を務めるヨルゲン・コルスターさんは、「オーガニックに転換するだけでは十分ではなく、もっとリジェネラティブ(再生的)になることを目指し、家畜の健康、土や生態系の健康、人間の健康、健全な経営を包括的に最適化していきたい」と語る。

スヴァンホルム農場で働くヨン・スミスさん(右)とローネ・プリタックさん。寒い時期、牛たちは牛舎で過ごす
スヴァンホルム農場で働くヨルゲン・コルスターさん(右)とローネ・プリサックさん。寒い時期、牛たちは牛舎で過ごす

ナチュアミルク社が販売するバターやチーズなどの乳製品、デンマークのアニマルウェルフェア(動物福祉)認証の最高評価を獲得。世界一のレストランと称される「noma(ノーマ)」(コペンハーゲン市)に食材を提供するなど、その品質も高く評価されている。

ヨーゲンセンさんは、「これまで続けられたのは、消費者の支援があったから。今後は化石燃料をできるだけ使わずにCO2排出量を削減し、生物多様性の保全にも力を入れていきたい。まだまだ貢献できることがあるはず」と意気込む。

ナチュアミルク社の牛乳。アニマルウェルフェア認証の最高位となる「3つのハート」と有機ラベルが並ぶ
ナチュアミルク社の牛乳。アニマルウェルフェア認証の最高位となる「3つのハート」と有機ラベルが並ぶ

30年に有機率30%、ラベルで啓発も  

デンマークは、世界で最もオーガニック食品が流通し、有機農業が拡大しているオーガニック先進国だ。なぜデンマークでは、これほどオーガニック食品が広がったのか。

オーガニック食品の市場シェアは世界トップの13%で、売上高は3700億円に達した(21年、デンマーク統計局/デンマーク農業理事会)。

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yoshida

吉田 広子(オルタナ輪番編集長)

大学卒業後、米国オレゴン大学に1年間留学(ジャーナリズム)。日本に帰国後の2007年10月、株式会社オルタナ入社。2011年~副編集長。2025年4月から現職。執筆記事一覧

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