「日本は35年までに電源9割クリーンエネ可能」は本当か

記事のポイント


  1. 日本は「2035年までにクリーンエネルギー比率9割達成が可能」
  2. 米エネルギー省の研究機関が日本の電力の脱炭素化を調べた
  3. エネルギーに関するCO2排出量は9割減で電気代も6%下がる

米エネルギー省の研究機関ローレンス・バークレー国立研究所は3月1日、日本の電力について調べたレポートを発表した。日本が再生可能エネルギーの割合を増やすことで2035年までにCO2を排出しない「クリーンエネルギー比率9割が可能」と分析した。同レポートに関するシンポジウムに出席した高村ゆかり・東京大学未来ビジョン研究センター教授は、「G7では2035年までに電力部門の脱炭素化を合意している。このレポートは政治的にも非常に重要な意味を持つ」と評価した。(オルタナS編集長=池田 真隆)

ローレンス・バークレー国立研究所は1931年に米国がエネルギー省の国立研究所として設立した研究機関だ。米国やインド、中国など世界の主要排出国の脱炭素化について調べている。

特徴は最新のデータを駆使して、コンピューターシュミレーションで最もコストが安い電源構成を試算する点だ。日本が2030年にエネルギー基本計画で定めた電源構成比率を達成し、2035年にクリーンエネルギー90%となるシナリオを調べた。クリーンエネルギーを、直接的にCO2を排出しない電源とし、再エネ、原発、⽔素と定義した。

CO2排出量は9割減で、電気代は6%減

サステナX

同レポートでは、石炭火力を発電したり、液化天然ガス(LNG)火力を新設したりしないでも、日本で2035年にクリーンエネルギー比率90%は実現可能だと結論付けた。現状、日本政府は2035年の電源構成比率を出していない。経産省がまとめた第6次エネルギー基本計画では、2030年までの電源構比率を出しており、再エネと原子力の電源構成比率を59%としている。

バークレー研究所がコンピューターシュミレーションによって試算した2035年の電源構成の内訳は、太陽光や風力など再エネが70%、原子力が20%、需給調整用としてLNGが10%だ。原子力が20%入っているが、同研究所の試算では40年に原子力は13%と見込む。再エネが増えることで徐々に減っていくという。

このクリーンエネルギー9割を実現した電源構成では、2035年の電力コストは2020年比で6%下がり、電力部門の二酸化炭素(CO2)排出量も2020年比で92%減る。現在、海外からの化石燃料の輸入に依存しているが、この組み合わせだと化石燃料の輸入を85%削減できる。日本のエネルギー安全保障の強化にもつながるとした。

再エネ設備を大幅に増やす計画ではなく、日本で最も再エネ設備を導入した2015年度の9.7GWに相当する量を順次増やすことで可能だと指摘した。この計画に必要な投資額は約38兆円と見積もった。発電、蓄電、地域間送電に関する累積の設備投資額だ。

炭素価格1トン当たり6000円で再エネ転換

同レポート作成に関わったバークレー研究所の白石賢司研究員は、この計画の実現可能性を高めるための政策も説明した。その一つがカーボンプライシングだ。炭素価格は1トン当たり現状の289円(地球温暖化対策税)を6000円に上げることで、石炭火力の採算性が取れなくなり、フェーズアウトすると話した。

日本には再エネを設置する適地がないという意見については、地域や建物の機能を位置関係で定める「ゾーニング」と送電計画の統合が必要だとした。許認可を早く出せるようにして再エネ導入を進めていく。

化石燃料業界で働く人の公正な移行については、米国などが実施している「リスキリング」が重要とした。再エネの電気技師へのトレーニングを行い、再エネ関連事業への移行を図る。

同レポートに関するシンポジウムに参加した高村ゆかり・東大未来ビジョン研究センター教授は、「コストだけでなく、便益や課題まで分析したこのレポートの価値は大きい」と評価した。

パリ協定で定めた「1.5℃目標」を達成するために、G7で2035年までに電力部門を脱炭素化することを合意したことについて触れ、そのための施策を考える際の参考になると述べた。

「パリ協定加盟国は5年ごとに排出計画を見直すNDCを国連に提出することになっているが、次は2025年だ。2025年のNDCでは2035年目標を出すことを国連は奨励している。2035年のエネルギーのあり方を考えるタイミングに来たことを示唆している」

シンポジウムを開いた一般社団法人クライメート・インテグレートの平田仁子代表理事は、「日本の政策とは真逆に位置するが、議論する上で重要な資料になる」とした。同レポートで示したシナリオを実現するための政策提言を行う。

再エネ転換へのグランドビジョンや国家戦略として公正な移行を支援する計画など3つの国家ビジョンと7つの政策を発表した。

M.Ikeda

池田 真隆 (オルタナ輪番編集長)

株式会社オルタナ取締役、オルタナ輪番編集長 1989年東京都生まれ。立教大学文学部卒業。 環境省「中小企業の環境経営のあり方検討会」委員、農林水産省「2027年国際園芸博覧会政府出展検討会」委員、「エコアクション21」オブザイヤー審査員、社会福祉HERO’S TOKYO 最終審査員、Jリーグ「シャレン!」審査委員など。

執筆記事一覧
キーワード: #脱炭素

お気に入り登録するにはログインが必要です

ログインすると「マイページ」機能がご利用できます。気になった記事を「お気に入り」登録できます。