
南米の産油国エクアドルで油田を放棄し、脱石油社会を目指す構想が日本に紹介された。
上智大学グローバル・コンサーン研究所が11月12日、都内でセミナーを開いた。
このセミナーは「アマゾンを石油に沈めないために―エクアドル・ヤスニITTの挑戦とグローバル市民社会の責任」というタイトルで開かれた。
エクアドルの国北東部に位置するヤスニ国立公園の広さは98万2000ヘクタール。ここには、推定で8億4600万バレル、金額に換算すると70億ドル相当(約5300億円)の石油が埋蔵されている。
その採掘を永久に放棄するというのがヤスニITT構想だ。その画期的な点は、各国が国内問題として扱ってきた資源開発で発生する費用の負担を国際社会に対して求めたことだ。
エクアドル側は、先進諸国は石油開発による環境破壊の費用を産油国に押し付けてきたと批判。共同責任として、市場価格の約半分にあたる36億ドル(約2800億円)の肩代わりすることを求めている。
これが実現すれば、フランスの年間排出量に匹敵する4億700万トン、金額にして24億500万ドル(約1900億円)に相当する量の二酸化炭素の排出を減らせる計算になる。
数百の風土病が存在し、150種類の両生類の生息が確認されるなど世界で最も多様な生態系を誇る同地域には、文明社会と隔絶して3部族の原住民が暮らす。希少な文化価値を保全する意味でも構想の社会的意義は大きい。
しかし、クリアすべき課題がある。資金不足だ。構想を実現するには、年間3億5000万ドル(約270億円)の資金を、国際社会が今後10年間にわたって払う必要がある。
エクアドル政府は2010年の8月に、国連開発計画との間で協定を調印。国連の下で資金管理を行うヤスニITT信託基金を設立し、資金を募ってきた。
しかし、資金は思うように集まっていない。当初、2008年6月に設定されていた補償金の拠出期限も2011年末まで延期された。
手始めに必要な補償金は1億ドル(約70億円)。しかし、11月20日の時点で、基金に寄せられた額は7000万ドル(約53億円)だ。年末までにこの不足を補えない場合は、構想が撤回される可能性が高い。
当然、国内にも、構想に反発する勢力がいる。採掘権を持つ石油企業だ。国営企業のペトロエクアドルを筆頭に、各企業が政府に対して強力なロビー活動を行っている。そして、政府内からも反対の声が上がりはじめた。構想実現は難局を迎えている。
講演を企画した「ニュー・インターナショナリスト・ジャパン」編集長の諸英樹さんは「資源開発のために、平穏な生活を脅かされている人々が世界各地にいる。その責任の一旦は、石油依存型の社会に暮らす私たちにある。構想を実践して、責任を果たすべきだ」と協力を呼びかけた。
(オルタナ編集部=赤坂祥彦)