記事のポイント
- 入管法改正案に反対する声が日に日に大きくなっている
- 反対集会に参加したまゆみさんはクルド人の夫がいる
- 「在留資格は宝くじにあたるようなもの」と投げかけられたことを明かした
入管法改正案に反対する声が日に日に大きくなっている。参院本会議で審議入りした5月12日夜、国会前で開かれた集会に4000人が集まり、廃案を訴えた。反対する署名も20万筆を超えた。難民申請中のクルド人の夫がいるまゆみさんは、入管職員から「在留資格は宝くじにあたるようなもの。帰国して迫害を受けたとしても自己責任」と、まともに取り合ってもらえない現状を明かした。(オルタナ副編集長=吉田広子)

与党は2021年にも入管法改正案を国会に提出したが、国内外の批判を受け、自ら取り下げた。しかし、今国会で再提出し、5月12日、参院本会議で審議入りした。5月16日には、参議院の法務委員会で審議される予定だ。
それに対し、野党は5月9日、対案を共同提出した。難民認定を行うための第三者機関の新設や、収容時に司法審査を導入することなどを盛り込んだ。国会の答弁では、野党が入管法を改正するための「立法事実」(法律の合理性を示す社会的な事実)の欠如を追及している。
国連人権理事会に任命された複数の特別報告者は、入管法改正案が「国際法違反」だとし、2021年に続き、見直しを求める共同書簡を日本政府に送った。難民申請3回以上で強制送還を可能にすることなどを問題視している。
■入管職員「迫害を受けても自己責任」

参院本会議で審議入りした5月12日夜、国会前で開かれた集会には4000人が集まった。
集会に参加したまゆみさんは2015年にトルコ国籍クルド人男性と結婚。夫はトルコで迫害を受ける可能性があり、日本に逃れてきた。結婚して3年を迎えるころ、突然、仮放免の延長が不許可になり、収容されたという。
まゆみさんは、入管に申し入れした際、職員から「いらない外国人にはみんな帰ってもらいたい。在留資格は宝くじにあたるようなもの。送還されて迫害を受けたとしても、本人の自己責任」と、半笑いで返答されたという。
夫は現在、4回目の難民申請中で、認定されなければ、強制送還の対象になる。まゆみさんは、「難民審査のインタビューでも、前の彼女との子どもの有無などを聞かれた。厳正な審査をしているとは思えない」と憤る。
奨学金を得て専門学校に通うロザリンさんも、強制送還の不安を抱える一人だ。2014年にクルド人の父の後を追って来日した。在留資格の一つ特定活動ビザを持っていたが、2021年末に突如、在留資格が取り消された。現在は、2回目の難民申請中だ。
「私は10歳から日本で暮らしている。何が起きるか分からない不安を抱えながらも、みんな一生懸命、勉強を頑張っている。学生から夢を奪ってよいのでしょうか」(ロザリンさん)
2005年、国連の基準で難民と認められたクルド人が、トルコに強制送還され、親子が引き裂かれる悲劇が起きた。こうした事態を防ぐために、現在の法律では、すべての難民申請者の送還は停止される「送還停止効」がある。
改正案では、難民申請を3回以上している者などについて、この送還停止効を解除する方針だ。
参考:クルド難民強制送還事件:国、国連、市民はどう動いたのか(難民支援協会)
■いとうせいこうさん「入管法『改悪案』は日本の安全保障を脅かす」
最後に、集会で代読された作家・クリエーターのいとうせいこうさんのメッセージの一部を紹介する。
「彼らは自ら国を出たかったわけではない。出ざるを得ない状況に突然見舞われて、想像を超える苦難の中で命を安らげる場所を必死に探しているのです。もう一つ重要なのは、私たち日本に住む者も彼らと同じ境遇になる可能性を持っているということです」
「原因は、異常気象や巨大地震、原子力事故による放射能被害、他国との摩擦、あるいは代々の生活の中でごく穏便に保っていた習慣が突如間違った宗教として国中から弾圧され、追い回されるといった事態は、決して夢まぼろしではありません。その時、私たちは国外に逃れる以外なくなるかもしれない」
「今回のような『入管法改正』、私は改悪だと思いますが、それは人類社会に普遍であるべき人間の権利を毀損するばかりか、私たち日本に住む者の安全保障までをひどく脅かすものだと思います。私たちは現在途方もない苦難の下にいる方々に手を差し伸べるために、そして同時に明日の自分たちを救うために、よりよい『入管法』があることを願います」