
市民公開シンポジウム「大津波で被害を受けた沿岸域の生物多様性の現状」が2月5日に仙台で開催された。
参加者は4対6で研究者より一般市民の方が多かった。海洋、水産、生態など多彩な専門家のネットワーク「東北沿岸生態連絡会」所属の研究者らが登壇した。
生態系への津波の影響は、岩礁よりは砂浜で、また、湾口よりは土砂の流出やがれきの往復があった湾奥で、より被害が大きい傾向があった。
しかし、生物種ひとつひとつへの影響は千差万別で、多くの種が相互に作用する生態系の状況は、時間を追うごとに変化している。各研究チームの発表は、地域ごとの津波の影響が、どれ一つとして同じでないことを示した。
三陸海岸では、地盤沈下で震災前の生物がほぼ消失した干潟もあれば、新たな種が運ばれてきて生物多様性が豊かになった干潟もあった。
仙台市の蒲生潟では、ヘドロが流されて水質が向上し、小さなゴカイなどが増加。津波で壊れた砂嘴(さし)も、わずか3カ月で再び発達した。
岩手県の大槌湾では、付着力の弱いウニや小型巻貝が流され大幅に数を減らした。また、福島県では川に運ばれたアサリの多くが淡水で死んだ。
生き延びた個体は、津波の影響で2週間ほど成長が止まっていたことが殻の色の変化で分かった。
宮城県の志津川湾では、ウニの可食部分の成長を支えるアラメ(コンブの仲間)の生息場所が地盤沈下で深くなった。津波で堆積した砂泥による濁りもあり、日光が届かなくなり再生が途絶えた。一方、浅瀬では新たな生育が見られた。
また、岩手県大船渡市の漁港では、地盤沈下によって満潮時に波を被るようなった場所に、フジツボやムラサキイガイやウニが順番に現れ豊かな生物相を形成しつつある。
北海道大学の仲岡雅裕教授は、2004年のスマトラ大津波前後にタイで生態系を調査した。そのときの課題を振り返り、「津波の影響評価には、広域かつ長期的な調査が不可欠」と強調した。
主催者の東北沿岸生態連絡会は最後に、水産価値の高い生物だけではなく多種多様な生物を調べて生態系全体を見ていく必要を訴え、市民に調査への協力を呼び掛けた。(オルタナ編集部=瀬戸内千代)