記事のポイント
- 「原発救済法」と批判される「GX脱炭素電源法案」、参院本会議で採決へ
- 事故が起きたときの責任を問われた岸田首相は回答を避けた
- 環境NGOや市民は「福島の反省が全くない」と、怒りの声を上げる
GX脱炭素電源法案が5月30日、参議院経済産業委員会で可決された。採決に先立つ質疑には岸田文雄首相が出席し、法案提出者としての責任を問われたが明確な回答を避けた。法案はきょう31日の参院本会議で可決・成立する見通しだが、環境NGOや市民からは「福島事故からたった12年で、十分な反省もなく原発回帰か」と怒りの声が上がる。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■岸田首相は「事業者の無限責任」を強調
「閣法として法案を出した責任者として、万が一老朽化による原発事故があった場合にはどう責任を負うか」。立憲民主党・田島麻衣子議員の質問に、岸田首相は「一義的な責任は事業者が負っている。その上で、新たな規制により厳正な審査が行われると理解している」と答え、こう続けた。
「損害賠償等については福島事故の反省と教訓を十分に踏まえて、政府としても枠組みを整備している。事業者の『無限責任』を前提として政府としても必要な賠償資金の確保を行い、事業者による迅速かつ適切な被害者救済が行われるよう、制度を適切に運用することで責任を持って対応していく」
岸田首相は「電力事業者の責任」を強調し、自らの責任については最後まで明言を避けた。法案では「国の責務」で原発を活用することを明記しており、岸田首相の発言は明らかに矛盾する。
法案は自民・公明、国民民主、維新の賛成で可決し、立憲民主・社民、共産が反対した。きょう31日の参院本会議で再び採決にかけられ、可決・成立する見通しだ。

■軍拡と原発を同時に推進するリスク
GX脱炭素電源法案は1)原子力基本法、2)原子炉等規制法、3)電気事業法、4)再処理法、5)再エネ特措法を一つにまとめた「束ね法案」で、5つのうち再エネ特措法を除く4つが原発に関係するものだ。
この法案は、60年を超えた原発の運転を認める。オルタナで報じた通り(5月11日)、環境NGOや研究者は老朽化による事故のリスクが増大すると指摘する。原発推進派の経済産業省に権限が集中し、福島事故を教訓にした「規制と推進の分離」の形骸化も懸念される。
経産委員会での採決を受け、5月30日夕方には約100人が抗議のため参議院議員会館前に集まった。
国際環境NGO「FoE ジャパン」の満田夏花(みつた・かんな)事務局長は「1ヵ月月足らずで5本の法案を束ね、全く審議が尽くされていないまま採決した。岸田首相が自らの責任について回答を逃げたことに、とても驚いた」と、怒りをぶちまけた。
経産委員会の議論を見て、居ても立ってもいられなくなったと福島から駆けつけたという女性は「福島第一原発事故からたった12年。多くの人が人生を狂わされ、いまだに故郷に戻れない中、なぜまた原発回帰なのか。これほどの憤りはない」と訴えた。
すぐ隣では、同じく成立が懸念される「防衛産業強化法案」への抗議があった。そこから飛び入りで参加した「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動」の藤本泰成・共同代表は「倫理委員会で脱原発を決めたドイツと異なり、日本には人間がどう生きるべきかという『哲学』の議論がない」と指摘した。
山口県で計画が進む「上関(かみのせき)原発」に反対の声を上げる男性は「県内のすぐ近くに米軍岩国基地がある。政府は敵地攻撃能力の保有を議論しているが、戦争になれば基地と原発が同時にターゲットになるリスクがある」と、危機感を示した。
抗議はきょう31日も、本会議に合わせて(10:00〜11:00)参院議員会館前で行われる。
〈追記:2023年5月31日13:30〉
5月31日午前10時から行われた参議院本会議で、GX脱炭素法案は賛成多数により可決・成立した。採決に先立ち、下記の議員が討論を行った。
・賛成:石井章(維新)、礒崎哲史(国民民主)
・反対:村田享子(立憲民主・社民)、岩渕友(共産)