記事のポイント
- 商用車両の運行管理システム開発用のオープンソースを無料で提供
- 過疎化や高齢化に悩む地域の交通インフラの維持・存続に貢献
- 提供者はタクシーのクラウド型配車システムで実績のあるITベンチャー
交通系ITベンチャーの電脳交通(徳島市・近藤洋祐社長)はこのほど、商用車両の運行管理システムを開発するためのオープンソースの無料提供を始めた。タクシーや乗合自動車、自家用車を使ったデマンド型送迎など、鉄道やバスの維持が困難な地域の新たな交通インフラ構築を見据えたものだ。無料提供を通じて地域交通DX化の裾野を広げることで、過疎化や高齢化に悩む交通空白地帯の課題解決への貢献を目指す。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■新たな地域交通サービス「地方版MaaS」の担い手に
オープンソース「Denno Mobility」は配車情報やスケジュール管理、配車係とドラーバー間のコミュニケーションなど、運行管理に関連した業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を可能にする。
オンラインプラットフォーム「github(ギットハブ)」上でテンプレートを無料提供し、目的に応じてユーザーサイドでカスタマイズする。旅客だけでなく、地域配送など物流用途への対応も可能だ。
電脳交通はこれまで、全国30以上の自治体や企業とともに地域交通のDX化に向けた実証実験に取り組んできた。島根県邑南町(おおなんちょう)の「地方版MaaS自家用有償旅客運送用支援システム」では、オープンソースをベースに開発したシステムが運行管理を担う。
「地方版MaaS(マース:モビリティ・アズ・ア・サービス)」はデジタル技術によって公共交通や移動サービスを組み合わせ、地域住民のニーズに応えるサービスだ。過疎化によって鉄道やバスの維持が困難な交通空白地帯への普及が期待されている。
邑南町は2018年に廃止されたJR三江線の沿線にあり、新たな交通インフラの確保を迫られていた。そこでJR西日本とともに、地域の自家用車を用いたデマンド型送迎サービスの実証実験を進めてきた。JR西日本は邑南町の検証結果を踏まえ、管内他エリアへの展開も検討するという。
政府も「地域公共交通のリ・デザイン」(2023年版交通政策白書)の一環としてMaaSやDX化の必要性を強調しており、今後オープンソースが活用される機会も増えていくだろう。

■高齢化と人手不足に悩むタクシー業界をDX化
電脳交通は2015年に徳島市で創業。きっかけは2012年、近藤洋祐社長が祖父の経営するタクシー会社を引き継いだことだった。廃業寸前だった会社の経営立て直しに大きく貢献したのが、近藤社長らが開発したクラウド型タクシー配車システムだ。
特に24時間電話対応に依存していた配車業務が、高齢化と人手不足に悩む現場の負担になっていた。ここを配車システムでデジタル化することで負担を軽減するとともに、空車状態で走る時間を短縮し収益向上につなげた。
約7割が小規模事業者のタクシー業界全体も同様の課題を抱えており、当時海外で普及し始めたUberなどの配車アプリにヒントを得て電脳交通を立ち上げた。同社の配車システムは現在、45都道府県400以上の事業者が導入。2025年までに法人タクシーの約3割に当たる6万台へのサービス提供を目指している。
電脳交通はタクシー事業者向けサービスで得た知見を活かし、地域交通全般へとソリューション提供の場を広げている。広報責任者の波多野智也さんは、オープンソースを無料提供した狙いをこう話す。
「地域交通の維持・存続には、一人でも多くの方が関心を持って参画すること。そして地域ごとにさまざまなトライアンドエラーを重ねることも大切。そのためのツールとして活用してほしい。オープンソースを入り口に、自らのビジネス開発力を社会課題の解決に役立てたい思っている方など、地域交通の担い手が増えれば嬉しい」
