記事のポイント
- 国連ビジネスと人権の作業部会が、日本での「ビジネスと人権」調査を終えて、記者会見した
- 記者会見では、芸能系メディアを中心に、ジャニーズ喜多川氏の性犯罪の問題に終始した
- だが、会見では他にも大事な示唆があった。特に人権デューディリジェンス(DD)の重要性だ
「ビジネスと人権」に関する日本での調査を終えた「国連ビジネスと人権の作業部会」は8月4日、都内で記者会見した。会見ではジャニーズ性加害問題に質問が集中したが、作業部会は、ほかにも重要な問題点を掲げた。それはジェンダーマイノリティの不平等や差別であり、福島原発の清掃・汚染除去作業に伴う強制労働も指摘した。(オルタナ副編集長=吉田広子)
(目次)
■日本政府の取り組みに「大きな穴」
■障がい者の法定雇用率に「改善の余地」
■技能実習生に「転職の柔軟性」を
■東電の多層下請構造や福島原発の清掃作業を問題視
■ジャニーズ性加害当事者「『救済』とは何か、よく考えて」

■日本政府の取り組みに「大きな穴」
国連ビジネスと人権の作業部会は7月24日から、「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(UNGPs)に基づき、日本政府と日本企業が人権上の義務と責任の履行にどう取り組んでいるか調査を行い、記者会見した。
会見の席に着いたのは、同部会のダミオラ・オラウィ議長(国際法学者)とピチャモン・イェオパントン氏(豪ディーキン大学研究部長兼准教授)だ。訪日中は、政府や企業、労働組合、市民社会の代表などと対話した。
今回の訪日は、ジャニーズ性加害問題で大きな注目を集めていたが、人権の専門家は会見で何を語ったのか。
オラウィ議長は「重要なのは、UNGPsと国別行動計画(NAP)が実行され、すべての企業が人権法を順守し、被害者に効果的な救済を提供することを保障する必要があることだ」と強調した。すべての企業は人権デューディリジェンス(DD)を実施すべきだとした。
日本には独立した「国家人権機関」(NHRIs)がないことについて、「深く憂慮し、政府の取り組みに『大きな穴』が開いている」と評価した。NHRIsの設置を強調し、「ビジネス関連の人権侵害を取り扱う明示的な任務と、民事救済を提供し、人権活動家を保護するために十分な資源と権限を付与すべきだ」とした。
作業部会は、人権リスクにさらされているステークホルダー集団として、「女性」「LGBTQI+」「障がい者」「先住民族(アイヌ民族)」「部落」「労働組合」を挙げた。報復を恐れて、通報が制限される可能性にも触れ、「公益通報者保護法」の重要性も主張した。
イェオパントン氏は、オルタナの取材に対して、人権DDの法制化に関して、「国際レベルと国内レベルの両方で、自主的措置と義務的措置の両方をスマートに組み合わせる必要がある。政府は企業が正しいことをするために、強制的な人権DD措置を実施することの利点を考慮する必要がある」と話した。
さらに、「スラップ訴訟」(個人・市民団体・ジャーナリストによる批判を封じ込めるために、企業・政府・自治体などが起こす訴訟)に対しては、イェオパントン氏は「アジア太平洋地域で、スラップ訴訟が急増していることを懸念している」と話した。「スラップ訴訟は、人権を侵害する行為の一つだ」と続けた。
■障がい者の法定雇用率に「改善の余地」