記事のポイント
- セイコーエプソンが全世界の拠点で使用する電力の93%が再エネに
- 残るはマレーシアの拠点のみで、年内に100%再エネ化達成の見通し
- 地産地消など「RE100」の要件を満たしながら地域の特性も重視する
セイコーエプソンはこのほど、全世界の拠点で使用する電力の93%を再生可能エネルギーに転換したと発表した。2023年12月までに残るマレーシアの拠点も切り替え、100%再エネ化を達成する見通しだ。同社は地産地消をはじめとする「RE100」の要件を重視しながらも、証書の活用など地域の特性に合わせた柔軟な対応で再エネシフトを進めてきた。(オルタナ副編集長・長濱慎)

■天然ガス火力主体のシンガポールで独自に太陽光を導入
セイコーエプソンの電力使用量は日本国内が約6割、海外が4割を占めている。2021年11月に、国内拠点で使用する電力の再エネ転換を完了した。「RE100」に加盟する国内製造業としては、最速の100%達成だった。
参考:セイコーエプソン、日本最速で「電力100%再エネ化」(オルタナ2021/12/27)
RE100は使用する電力の100%再エネ化を目指す国際的な企業連合で、世界400社以上(日本企業は83社)が加盟している。セイコーエプソンは「2023年中に全世界の100%再エネ化」を掲げており、9月1日にシンガポールの拠点の再エネ化によって93%の転換が完了。予定通りの目標達成がほぼ確実となった。
シンガポールには2つの製造拠点があり、一カ所に自社所有の太陽光パネルを、もう一カ所に工場の屋根を活用したオンサイトPPA(電力購入契約)を導入した。PPAはシンガポールの発電会社が太陽光設備を所有し、そこから長期契約で電力を購入するスキームだ。
シンガポールは国土が狭いため国内の再エネ供給量が限られ、電力の約9割を天然ガス火力に依存している。セイコーエプソン広報IR部は、オルタナ編集部の取材にこう答えた。
「シンガポールは政府主導で太陽光発電を普及させようとしているが、現在は公共機関や官公庁への供給を優先しているため自社独自での調達を決めた。企業セクターによる再エネ100%化の先進事例として、現地では高く評価されている」
■マレーシアでは政府主導のグリーン電力制度に加入
シンガポールでは前述の国土面積の制約などもあり、100%再エネ化には国外の電力証書を併用する必要もあったという。
「ベトナム産I-REC(再エネ電力証書)を使用した。RE100が求める再エネの地産地消に100%応えることはできなかったが、限られた条件の中で最良の方法を考えた。シンガポールのように適合が難しいケースについては当社からRE100への提言も行うなど、地域や社会全体の脱炭素化が進むよう取り組みを進めたい」(広報IR部)
残るマレーシアの製造拠点も12月までに転換する予定で、これをもって全世界の拠点の100%再エネ化が完了する。マレーシアでは国有電力会社のGET(グリーン電力料金)、太陽光発電(PPA)、電力証書を組み合わせる。
GETはマレーシア政府が22年に導入した再エネ普及施策だ。加入した顧客に水力や太陽光による電力を供給する代わりに1キロワット時あたり3.7セン(約1円)の追加料金を徴収し、新たな再エネの開発に充てる。
マレーシアは電源構成の約8割を天然ガスと石炭が占めており、2050年までに再エネ比率を70%に引き上げる目標を掲げている。セイコーエプソンはRE100の要件を重視しながらも、こうした国や地域ごとの特性やニーズに合わせて再エネ化を進めてきた。

■「スコープ3」は45%削減を前倒しで達成
セイコーエプソンは電力の再エネ化によって、全社の温室効果ガス排出量の20%弱を占める年間約40万トンを削減する。約80%を占める「スコープ3」については、2025年度までに44%削減(事業利益あたり・2017年度比)を掲げていたが、22年に前倒しで45%削減した。
広報IR部は「スコープ3の中で最も排出量の多いカテゴリー11(※)について、商品の省電力化を継続的に推進してきたことなどが成果となって現れたのではないか」とコメントした。
※スコープ3のカテゴリー11:スコープ3は自社以外のサプライチェーンでの排出のことで、15カテゴリーからなる。このうちカテゴリー11は、顧客先などで商品を使用したときの排出分を意味する